晦−つきこもり
>六話目(山崎哲夫)
>K10

おお、葉子ちゃん。
勘がいいねえ。
自分は、ぐらぐら煮える大釜を選んだんだ。
するとンバンバ族は、舌なめずりをしながら、こっちをじろじろ眺め始めたんだよ。

煮込まれて食べられてしまいそうな雰囲気だった。
自分は慌てていったよ。
「すまん!! やっぱり刃物と台座だ!!」
とな。
だが、言葉が通じなかった!

いやあ、あの時はさすがに怖かったよ。
身振りで伝えようとしたんだが、焦れば焦るほど、それができなかったんだから。
そうこうしているうちに、ンバンバ族は奇妙な踊りをおどりはじめた。

自分は必死で、刃物と台座を指したんだ。
……それでようやく、自分の思いが通じてな。
ンバンバ族は、しぶりながらも刃物と台座の儀式をし始めたんだ。
たくさんの干し首をつけたンバンバ族が、長い刃物を持った。

そして、幾人かのンバンバ族が、自分の両手をがっしりと掴んだんだ。
自分は、最初従順なふりをして、刃物と台座の方に近寄っていった。
刃物を持ったンバンバ族は、自分に向かって呪文のような言葉を唱えていた。

そして、長い刃物を振り下ろしたんだ。
「ギャーーッ!!」
叫んだのは、周りのンバンバ族だった。
自分は、間一髪で刃物を避け、手を縛っていたロープが切れるように体を動かしたんだ。

「ンババーッ!!」
ンバンバ族は、叫びながら自分に突進してきた。
だが、体が自由になればこっちのもんだったよ。
自分は、そいつから刃物を奪うと、建物の中央に吊るされたベールに向かって走っていったんだ。

ベールの中には、ンバンバ族の長がいる。
自分は確信していた。
そいつを人質にして、逃げ出そうと思っていたんだよ。
「んばーっ!!」
自分は、ンバンバ族の風習にならって、叫びながらベールの中に侵入した。

しかし中には、誰もいなかったんだ。
しまった!
今日は、長が不在なのか?
ンバンバ族は、自分の後を追ってすぐそこまで来ている。
すぐにヤリを持って、ベールの中に入ってきた。

追い詰められた。
もう逃げられない!!
自分が絶望した時、ンバンバ族はいきなり雄叫びをあげたんだ。
「ンバーッ!!」
ンバンバ族の視線は、自分の後ろに集中していた。
それで、後ろを見てみると……。

豪華な台座の上に、奇妙な形をした石が置いてあったんだ。
どうやらそれは、連中にとって大切なものらしかった。
神像だったんだろう。
迷っている時間はなかった。
自分はその石を掴み、刃物を押し当てたんだ。

その判断は正しかった。
ンバンバ族は、いきなりおろおろし始めたんだよ。
自分は、敵に背中を見せないようにしながら、ゆっくりとベールの外に出た。
もちろん、時々敵を威嚇することも忘れなかったよ。

がっはっは、おかしかったなあ。
自分が、んばーっといえば、奴等は身を縮こまらせていたんだから。
そうして、命からがらキャンプをしていた湖まで戻ったんだよ。

……あの国で発見されたという伝説の恐竜は、生き物ではなかったんだ。
ンバンバ族の神殿だったんだよ。

自分は、すぐさま帰り仕度を始めた。
そして、予定より早く帰国したんだ。
……はあはあ、怖い話だったろう?
1.怖がってあげる
2.鼻で笑う


◆一話目〜五話目で石の話を聞いている場合
2.鼻で笑う