晦−つきこもり
>六話目(鈴木由香里)
>A2

「もしかして、由香里姉さんの……?」
私、思わず聞いちゃった。
まぁ、そんなことないだろうとは思ってるけど……。
由香里姉さんも、驚いて目を丸くしてる。
ほら……、やっぱり唐突すぎたのよ。

ところが、由香里姉さんの口から出た言葉は……、
「すっごーい! よくわかったねー」
……だって。
「由香里ちゃん、結婚したっていうのかい?」
「まぁ、お祝いしなきゃいけませんわね」

「みずくさいじゃない。何にもいわないんだから……」
由香里姉さんは、ニコニコしながら左手を上げたの。
その薬指には……。
キラキラと輝くゴージャスな指輪が……!!
エンゲージリングってやつね。
由香里姉さんたら、この指輪をみんなに見せたかったのね。

「ステキでしょ? スンバライトっていう、とても珍しくて貴重な宝石なんだよ」
なんだか、声まではずんでるみたい……。
でも、由香里姉さんが、自慢したくなる気持ちもわかるなぁ。
とっても大きな宝石だわ。
それに、うっとりするような不思議な輝き……。

由香里姉さんのわずかな動きに反応して、色彩が微妙に変化するの。
その輝きに魅せられてるのは、私一人じゃないみたい。
和子おばさんや正美おばさんばかりか、泰明さんや哲夫おじさんの視線も、由香里姉さんの左手に釘付け。

まるっきり興味なさそうなのは、良夫一人だけ……。
まぁ、良夫にとっては猫に小判か。
それにしても、スンバライト……。
なんてステキな宝石かしら。
そう思った時、熱心に指輪を見つめてた哲夫おじさんが、おもむろに口を開いたの。

「これは、本物のスンバライトじゃない!」
ええっ!?
一瞬のうちに緊張が走る。
「嘘! これは本物のスンバライトよ!」
すぐに反論したのは由香里姉さんだった。
当たり前よね。

せっかくのエンゲージリングを、偽物なんていわれたら誰だって怒るわ。
でも、哲夫おじさんの自信たっぷりって態度が、なんだか気になって……。
由香里姉さんの宝石は、本物なの?

それとも、哲夫おじさんのいうように偽物なの……?
1.本物だと思う
2.偽物だと思う