晦−つきこもり
>六話目(鈴木由香里)
>M11

「由香里姉さん! それは、きっと分身の術よ! そうに決まってるわ!!」
私は、思わず叫んでた。
同じ顔をした人がいっぱい現れるっていうのは、忍者が使う分身の術しかない!
一人が二人、二人が三人、三人が……ってやつ。

きっと、風間家っていうのは忍者の子孫で、山奥に隠れ住みながら、先祖代々の秘宝を守り続けてるのよ。
それで、年頃になった青年だけが山を下りてお嫁さんを探すの。
…………いいなぁ、うっとり。
私、泰明さんのお嫁さんの次に、忍者になりたかったんだぁ。

その次が……、何だったかしら?
「ははっ、そういえば葉子ちゃんは、忍者が好きだったね」
「だっせーな! ガキみたいだぜ。
葉子ネエ」
むっ、良夫ったら何てこというのかしら!
忍者を馬鹿にしてるな……。

こういう奴には、うーんときついお仕置きが必要なんだから!!
その時……、
<はっはっはっはっは……>
っていう、とっても偉そうな笑い声が、私の頭に響いてきたの。
……誰!?
誰なの……?

<おおっと、今はまだ正体を明かすことはできないんだ。そうだな……、通りすがりの美少年とでもいっておこうか>
………………はぁ?
誰かのイタズラ?
特に不審なものは見えないし……。

<こらこら、なんてことを考えてるんだ。君の、忍者に対する純粋な憧れを察知して、わざわざ人が交信してやってるのに……>
えっ?
……ってことは、本物の忍者!?
<はっはっはっはっは……。その通りさ、お嬢さん>
きゃーーーっ!

どうしよう! 本物だって、嬉しーーー!!
これも、テレパシーみたいな、一種の忍術なのかしら……?
<そんなに喜んでもらえると、僕も嬉しいよ。いや、しかし君のいうとおり、良夫君という少年はまったくとんでもない奴だね。忍者を馬鹿にするなんて許せん!>

そうよ、そうよ。
<忍者とは、時代劇のヒーロー!
お茶の間の爺ちゃん婆ちゃんからお孫さんまで、世代を越えたアイドルなんだ! いつか先祖の秘宝を見つけ出して、都心の一等地に、冷暖房完備、風呂トイレ付き、収納スペース有りの立派な忍者屋敷を建てるんだーい!!>

そうよ、そ…………。
そう……かなぁ?
ま、いっか……。
深く考えちゃいけないみたい。
<そうそう、深く考えちゃいけないんだよ。よーし、これから僕が、偉大な忍術を見せてやろう!
そうすれば、とんでもない少年も、きっと忍者に夢中だね!>

ステキだわ!
忍術が、実際に見れるなんて……!
さぁ、早く見せて下さい!
……………………………………… ……………………………………… ……………………………………… ……………………………………?

<……うーむ、今日は日が悪い。
また今度にしよう>
……ええーっ! そ、そんなぁ。
<その日まで、一日三度、西の空に向かって『風間様はステキでうっとりしちゃう』と唱えなさい。ちゃんと声を出してだぞ。いいね>

ええっ? 何でそんなことしなきゃいけないの?
<ふっふっふ……。まぁ、騙されたと思って唱えてごらんよ? きっと、すごいことがおこるからさ>
1.唱えてみる
2.絶対、唱えない