晦−つきこもり
>六話目(藤村正美)
>J4

そうなんですの?
葉子ちゃんは、佐原さんと気が合うのかもしれませんわね。
なぜって、彼女も同じ選択をしたからですわ。
佐原さんは、石井さんを、例の個室に案内したのです。

「じゃあ、朝までここで休んでいてくださいね」
そういって出て行こうとする彼女に、石井さんは声をかけました。
「あのう……寝るまで、手をつないでいてくれませんか。そうすると、落ち着くと思うんですけどお」

「…………勤務がありますので」
いうと同時に、佐原さんはドアを閉めました。
「ちぇっ。せっかく、本物の看護婦さんにさわれるチャンスだったのになあ」
残された石井さんの独り言に、誰かが吹き出しました。

この部屋には、誰もいないはずなのに!?
振り向くと、そこに小さな子供がいたんですの。
小学一年生くらいの女の子。
サスペンダーつきの赤いプリーツスカートをはいて、三つ編みを垂らしていました。

ニコニコと、彼を見上げています。
「君、どこの子? どこから入ってきたの」
「あたし、ノコちゃん。ねえ、だっこして」
女の子は、両手を差し出しました。
その指には、ネジ曲がった鋭いカギ爪が生えています。

石井さんは思わず身を引きました。
「このお爪、いや?」
女の子がいうと、彼の目の前で、爪が見る見る縮まるじゃありませんか。
「これなら、いーい?」
にっこりと微笑む姿を見て、石井さんは鳥肌が立つのを感じました。

この少女は人間ではない……と、ハッキリわかったからです。
「お兄ちゃん、だっこして」
女の子は、無邪気に彼を見上げています。
さっきのことを考えなければ、とても可愛い女の子です。

葉子ちゃん、あなたは子供が好きかしら?
1.そうでもない
2.大好き