晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>B3

ああ、わかる、わかる。
何となく気になって、読んじゃったりするんだよな。
よくわかんない、難しい言葉が書いてあったりしてさ。
いってる意味は、よくわかんないけど、教科書読むよりは全然、面白いよ。
でも、戸波が見たのは、そんなんじゃなかったんだ。

「我が愛し子の糧となれ」
……って書いてあったんだって。
『カテ』って何かわからなかったけど、いやな感じだった。
だから、急いで出ようとしたとき。
ポタ……って、肩に何か落ちてきたんだ。

見ると濡れててさ、雨漏りかなって思ったんだって。
でも、さわったらベトーッと糸を引くんだよ。
ゲッ、何だよこれ、って思って、戸波は上を見た。
そこには、女の顔したクモがいたんだ!
細かい毛の生えた太い足と、パンパンにふくれた縞模様の腹。

牙ののぞいた口からは、タラタラとよだれを垂らしてる。
「ぎゃああっ!」
戸波は、個室から転がり出た。
汚い床に転がっちゃったけど、そんなこと気にしてられないよな。
1.ええーっ、きったなーい
2.確かに、それどころじゃないわね