晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>I5

そうだよな。
それで悩んだあげくに、怖くなっちゃったんだって。
で、ピンクさんを突き飛ばして、逃げ出しちゃったんだ。
「お待ちっ!」
ピンクさんは鋭く叫んで、追いかけてくる。

引きずるような長いドレス着てるのに、信じられないくらい速いんだ。
飛んでるみたいなスピードで、長い爪を構えてさ。
片山の兄ちゃん、半ベソかいて走ったよ。
走って走って、ハッと気がついたときには、もう遅かった。

遮断機の下りた、踏切の前に来ちゃったんだよ。
後ろからはピンクさんが迫ってくる。
追い詰められて、兄ちゃんは持ってたカバンを振り上げた。
野球のバッターみたいに、思いっきりブン回す!
ドカッ!

カバンは、走ってきたピンクさんの頭に、横からものすごい勢いで当たった。
「ぎゃあっ」
ピンクさんはよろめいて、遮断機の向こうまで転がっちゃったんだ。
ちょうど運悪く、そこに電車が来た。

あとは……いわなくても、わかるだろ。
夜遅く帰った片山の兄ちゃんは、全身血まみれだったって。
頭から血を浴びたみたいにさ。
家族は心配したけど、何もいわなかったんだって。
そうだよな、人殺しちゃったなんて、いえないもんな。

次の日、ボウッと学校行った片山の兄ちゃんの前に、信じられないもんが現れたんだ。
そう、ピンクさんがさ。
ぴんぴんして、いつものピンクのドレスには、汚れ一つついてない。
そのピンクさんが、こっちを見て、ニヤッと笑ったんだ。
口から、スーッと血が垂れた。

「ゆ、許してくれーーーーっ!」
そう叫んで、片山の兄ちゃんは、もと来た方へ駆け出した。
「危ない!」
誰かが叫んだときには、もう遅かったよ。
ガードレール飛び越して、走ってきた自動車にひかれちゃったんだ。

体がぐちゃぐちゃで、もう助からないって、一目でわかったっていうよ。
大騒ぎになってさ、気がついたら、いつの間にかピンクさんがいなくなってたんだって。
片山の家族は、そのときのショックで引っ越しちゃったんだ。
……でも俺、気になってさあ。

近ごろになって、しばらくいなくなってたピンクさんが、また姿を現したらしいんだよ。
新しい犠牲者を捜してるんじゃないかなあ。
俺や、俺の友達じゃないといいんだけど。

これが、ピンクさんの話だよ。

(→聞いていない話がある場合)
(→全ての話を聞いた場合)
(→全ての話を聞いたが、「6.生きている骸骨」の話の最初の選択肢で「3.百六十センチは、絶対にないわよね」を 選んでいる場合)