晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>J5

そうなんだ、偉いじゃん。
片山の兄ちゃんなんか、悩んで悩んで、やっとうなづいたんだぜ。
二人が行ったのは、ピンクさんの家だったんだ。
壁が黒ずんで、風が吹いたら今にも崩れそうなボロ屋でさ。
そんなとこに、宝石なんてあるわけない。

ビビって逃げ出そうとした腕を、ピンクさんのしわしわの指がつかんだ。
「どこへ行くんだい。こっちだよ、ほら!」
年寄りとは思えない、ものすごい力だった。
片山の兄ちゃんは、引っ張り込まれちまったんだよ。

通されたのは、広い和室だった。
外からは想像がつかないくらい、きれいな部屋でさ。
真ん中にでーんと、でっかい座卓があって、お茶とお茶菓子が載ってた。
ぽかーんと見てる片山の兄ちゃんの背中を、ピンクさんが押した。

「ほら、お菓子でもお食べ。すぐ戻ってくるからね」
そういって、出て行っちゃったんだよ。
片山の兄ちゃんは、モジモジしながら座布団に座った。
誰だって、よく知らない人の家に行ったら、緊張するじゃん。

片山の兄ちゃん、そいで、トイレに行きたくなっちまったんだよ。
廊下を見回すと、ピンクさんの姿はない。
でも、突き当たりのドアが、どうもそれっぽい。
だから、そこまで歩いていったんだ。

古びた木の取っ手に手をかける。
開けようと腕に力を込めた瞬間、すぐ後ろで声がした。
「何してるんだい」
いつの間にか、ピンクさんが後ろに立ってたんだ。
片山の兄ちゃんは、ビックリしてよろけた拍子に、ドアにぶつかっちゃった。

ドアはきしみながら開いて……中が見えた。
窓もない、暗い部屋の中にうずくまってる、小さな子供。
腕や頭や、見える部分の皮膚は、まるでオブラートみたいに、クシャクシャに乾いてる。
目はくぼんで、黒い空洞になってる。

そして、額にエメラルドっぽい緑色の石が、はめ込んであるんだよ。
あれはミイラ!?
ミイラに、エメラルドをはめ込んであるんだ!
飛び退いた肩を、ピンクさんの骨ばった手が押さえた。

「あんたも、この子の仲間にしたげるよ」
低い声が、耳元でささやいてきた。
ハッとして振り向いた額に、重いナタが撃ち込まれたんだよ。
ブワッと血が吹き出して、片山の兄ちゃんは倒れちゃったんだ。

ピンクさんは、ナタを下ろして、ニヤッと笑った。
「これでよい……あんたも、アタシの幸せを祈っておくれ」
そういうと、ポケットからエメラルドを出してさ。
額の傷にぐりぐりネジ込んだんだって。

そうしておいて、ミイラに寄り掛からせると、ちょっと離れて満足そうにうなづいた。
「これでできた……アタシの繁栄の守り神……」
ピンクさんは、そのままドアを閉めたんだ。
片山の兄ちゃんは、だから今でも行方不明なんだぜ。

片山の家族は、警察にピンクさんを調べてくれっていったらしいけど……。
未だに捕まってないってことは、兄ちゃん見つかんなかったんじゃないかなあ。
それで、片山の一家は、隣町に引っ越してったんだってさ。
ピンクさんは、今でもたまに、うちの学校に来てるよ。

新しい犠牲者を捜してるのかもな。
気持ち悪いけど、見た目は普通のばあさんだからさ。
下級生なんて、正体知らないヤツもいるんじゃねえの。
でも、俺たちは絶対一人じゃ帰らない。
片山の兄ちゃんの、二の舞はやだもんな。

これが、ピンクさんの話だよ。

(→聞いていない話がある場合)
(→全ての話を聞いた場合)
(→全ての話を聞いたが、「6.生きている骸骨」の話の最初の選択肢で「3.百六十センチは、絶対にないわよね」を 選んでいる場合)