晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>K4

へえ、偶然じゃん。
片山の兄ちゃんも、同じこといったんだよ。
そうしたら、ピンクさんはにーっと笑った。
「そうかい。ルビーは、持ち主の才能を引き出して、自信を持たせるっていうものねえ。それじゃあ、おいで……」
ピンクさんが手招きする。

片山の兄ちゃんは、フラフラとついてっちゃったんだ。
二人が行ったのは、古い家だった。
そこの座敷に通されて、お茶なんて出してもらっちゃったんだって。
赤くて透き通った、きれいなお茶でさ。

紅茶の一種かなって、思ったらしいぜ。
飲んでみると、すっごくうまいんだって。
いいにおいで、のど越しがさわやかで、飲んだ後に甘みが残って……。
今まで飲んだこともないような、うまいお茶だった。

ごくごく飲んじゃったのを見て、ピンクさんがにこにこ笑いながら、こういうんだよ。
「おいしいかい? それはね、特別製のお茶なんだよ」
「特別ですか、道理でうまいと思った」
ピンクさんは、口に手を当てて、おかしそうに笑った。

「そうかい、そりゃよかった。このお茶は、ルビーを溶かして作ったのさ」
「ええっ!?」
片山の兄ちゃんは、ビックリした。

「信じられないかい。でも本当に、ルビーを特殊な液体に漬けて、何ヵ月もかけて溶かしたものなんだよ。何で、そんなことをするのか……不思議だろうね」
ピンクさんは話し続けてる。
だけど、なんだか体が痛くなってきた。
全身がズキズキする。

おまけに体が重くて、腕が上がらない……。
「このお茶の素晴らしいところはね、いくらでもルビーを増やせるってことなんだよ」
ピンクさんは、まだしゃべってる。

「今、証明してあげるからね!」
ピンクさんが、いつの間にか握ってた包丁で、片山の兄ちゃんの腕を切り落とした!!
「ぎゃああっ!」
……血が飛び散るはずだった。
なのに、切り落とされた断面からは、何かがザラザラとこぼれ落ちるんだ。

全身の痛みは、ますますひどくなってく。
これに比べれば、腕を切り落とされた方が痛くないくらいだ。
「ふふふ……やっぱり、子供の血はきれいだねえ」
ピンクさんは嬉しそうに笑って、腕からこぼれる何かをすくい上げた。

それは、赤くて透き通って、結晶みたいな形をしてる。
まるで、それは……。

「ピジョン・ブラッドって知ってるかい。ルビーはね、ハトの血の色が、一番美しいとされてるのさ。
だけど、それよりきっと、人間の血の色の方がきれいだよ。ほら……」
ピンクさんは、赤い宝石を明かりにかざして見てる。
片山の兄ちゃんには、もう何かいう元気もなかった。

全身の痛みでボウッとする。
体中の血がルビーに変わっちゃったから、血管や内臓が、あちこちで破れちゃってるんだ。
ザラザラと流れ出す、ルビーの血に埋もれるみたいにして、片山の兄ちゃんは死んじゃったんだよ。
家族が捜したけど、手がかりは何もなかった。

俺たちは、ピンクさんが怪しいってわかってたんだけど……。
ピンクさんは、普段と同じように、下校する子供たちを見てたしな。
ああしてると、普通のばあさんにしか見えないもん。
だから、大人はだまされちゃうんだ。

片山の家族は、そのうち隣の町に引っ越してった。
うちの学校では、この話を代々下級生に伝えることになってるんだ。
もちろん、もう犠牲者を出さないようにさ……。

これが、ピンクさんの話だよ。

(→聞いていない話がある場合)
(→全ての話を聞いた場合)
(→全ての話を聞いたが、「6.生きている骸骨」の話の最初の選択肢で「3.百六十センチは、絶対にないわよね」を 選んでいる場合)