晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>O3

そうなんだよな。
誰がいい出したのかは、俺も知らないんだ。
いかにも怪しいって感じの名前だろ。
ピンクさんは本物だよ。
隣町に、片山って女子がいるんだけどさ。
二年生まで、うちの学校に通ってたんだよな。

そいつの兄ちゃんが、小学校のとき、ピンクさんに会ったんだって。
週番で遅くなった片山の兄ちゃんが、一人で校門から出ていこうとしたんだ。
そしたら、すぐ横でしゃがれた声が聞こえた。

「宝石は欲しくないかい?」
振り向くと、いつの間にかピンクさんが側にいるんだよ。
片山の兄ちゃんは、ピンクさんに会ってみたかったんだ。
だから嬉しくて、迷わずに答えた。
「はい、欲しいです」
ピンクさんは、ニヤッと不気味に笑った。

「そうかい……それじゃあ、どんな宝石が欲しいんだい?」
「エメラルドです!」
今度も、片山の兄ちゃんは迷わなかった。
何か、エメラルドって、片山の母親の誕生石だったんだって。

そうしたら、ピンクさんはにーっと笑った。
「そうかい。エメラルドは、繁栄と癒しを司るんだよ。さあ、おいで……」
ピンクさんが手招きする。
片山の兄ちゃんは、迷ったんだ。
そうだよな、俺だって悩んじゃうよ。

葉子ネエだって、悩むだろ?
1.そりゃそうよ
2.悩んだりしないわ