晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>Q5

まあ、わかる、わかる。
普通の女なら、悲鳴あげて逃げ出すとこだよな。
その女子も、ビビッちゃったんだよ。
それで、不思議な声に逆らって、塚から手を離した。
逃げ出そうとしたんだな。
ところが、そのとき、バサッと大きな音がした。

音の方に振り向いたヤツは、そのまま凍りついちゃったんだ。
そいつが見た光景って、どんなんだったと思う?
黒い腐葉土を押しのけて、たくさんの骸骨が出てくるとこだったんだよ!
灰色の骨に、湿った土がこびりついてる。

うめき声をあげながら、こっちに向かって来るんだ。
「イヤーーーーッ!」
そいつ、ビックリして腰抜かしちゃってさ。
両手で泳ぐみたいにして、必死で逃げようとした。
でも、すぐに追いつかれちゃってさ。

ひからびて欠けた指が、震えてる長い髪をつかんだ。
「キャアアーーーーッ!!」
すかさず伸びてきた何十本って腕が、そいつの体を、力まかせに引きちぎろうとする。
皮膚を裂き、肉をむしって、自分たちと同じ骸骨にしようとするんだよ。

もうろうとした意識の中で、さっきの声が響いてきた。
「私に水をくれたなら、この力も復活したろうに。今の私には、おまえを助ける力はない……」
発見されたとき、そいつはほとんど、白骨化してたってさ。
みんな、野犬に襲われたと思ったらしいけど。

だから結局、モノノケ様の正体は、わからないままなんだよ。
モノノケ様の塚にいた、あの骸骨もな。
それにしても、モノノケ様って、骸骨から女子を助けようとしたんだろ。
ひょっとしたら、そんなに悪いヤツじゃないんじゃないの?

葉子ネエ、調べてみたら、面白いかもよ。

これが、モノノケ様の話だよ。

(→聞いていない話がある場合)
(→全ての話を聞いた場合)
(→全ての話を聞いたが、「6.生きている骸骨」の話の最初の選択肢で「3.百六十センチは、絶対にないわよね」を 選んでいる場合)