晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>AB4

へえ、葉子ネエって、桐生に考え方が似てるのかな。
あいつも、中を見てもしょうがないって思ったんだ。
だって、中身は下に落ちてるはずじゃん。
だから、一階のゴミ置き場に行くことにした。
ゴミ置き場には、ゴチャッといろんなもんが積んであってさ。

人影が何をいいたいのか、よくわかんなかった。
そしたら、か細い声が聞こえたんだよ。
「ニンギョウ……オニンギョウ……」
ダストシュートの出口から聞こえてた。
人形っていってるみたいだった。

確かに、そのダストシュートの出口近くに、それっぽいもんが見えたんだ。
近寄ってみると、やっぱ人形だった。
三十センチくらいの、小さい女の子が抱くような人形。
あの人影は、きっとこれを欲しがってたんだろう。

かがみ込んで拾い上げようとしたら、ダストシュートの出口から、何か音がしたんだ。
「え、なんかいった……?」
てっきり、上にいる人影が、また何かいったんだと思った。
だから、何気なく頭を突っ込もうとした瞬間。

ドカッと重たい音がして、目の前にコンクリートのかたまりが落ちてきた。
ちょっとタイミングがずれてたら、桐生の頭に直撃するとこだったんだぜ。
腰を抜かしたヤツの耳元で、冷たい声が聞こえた。

「ちぇっ……はずれちゃった」
声はさっきと同じなのに、憎しみや残酷さがにじみ出てるみたいに聞こえた。
「きゃははははっ!」
子供の甲高い笑い声。
桐生は急いで、四階に戻ったんだ。
でも、人影はいなくなってた。

あいつは、どうして桐生を殺そうとしたんだろう。
桐生自身に、俺も聞かれたんだけどさ…………わかんねえよな。
人影は、それっきり目撃されなかったよ。
でも泣き声は、まだしてる。
だから、またいつか、人影も現れるのかもしれないな……。

これが、幽霊の出る公民館の話だよ。

(→聞いていない話がある場合)
(→全ての話を聞いた場合)
(→全ての話を聞いたが、「6.生きている骸骨」の話の最初の選択肢で「3.百六十センチは、絶対にないわよね」を 選んでいる場合)