晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>AF3

よっくいうよなあ、葉子ネエ。
うちに対する、嫌味なわけ?
いいけどさ。
その家は、半年くらいで壊されちゃったんだよ。
何だか、持ち主が行方不明になったとかで。

それで『立入禁止』って札が立った空き地になっちゃったんだよ。
まあ、そんな立て札なんか関係ないじゃん。
よく遊びに行ってたんだけど、その空き地って、真ん中あたりに、でっかい穴があってさ。
とにかく深いんだよ。

石とか投げても、全然底の音とかしないんだ。
そうなると、面白くなっちゃってさ。
中を探検しようなんてヤツが、出てきたわけ。
ううん、俺じゃないよ。
そんな顔でにらむなよ、母ちゃん。

隣のクラスの森尾って男と、その友達だよ。
森尾たちは、急斜面の穴の中を、しがみつくみたいにして降りてった。
しばらくは太陽の光が届いてたけど、ゴツゴツした壁のせいで、すぐに暗くなっちゃったんだ。

だから懐中電灯つけて、さらに降りてった。
十分か、それとも三十分くらい降り続けたかもしれないな。
なのに、全然底が見えてこないんだよ。
さすがに不安になってきた頃、暗闇の中で何か動いた。
ハッとして、そっちに明かりを向けてみたんだ。

ざんばら髪に、ガリガリの手足、びっしりとウロコの生えた体。
手に持ってるのは、食いかけらしいネズミ。
まぶたのない、ギョロッとした目が、こっちを見た。
森尾たちは、悲鳴をあげて逃げ出したよ。

ギイギイ叫ぶ声が、後ろで聞こえる。
追いかけてきてるらしい。
足元で、ボロボロと土が崩れる。
だけど、バランスを崩して手をついても、絶対に転ぶわけにはいかないんだ。
追いつかれたら、何されるかわかんない。

顔も服もドロドロにして、森尾たちは走り続けた。
どれくらい走ったか、わかんない。
上の方に、光が差し込んでるのが見えた。
助かった!
ホッとした瞬間、背後の暗闇から、細くてウロコのついた腕が伸びた。

腕は、仲間の一人の頭を両手でつかんで、闇の中へ引きずり込んじまったんだ。
それから急に悲鳴が消えて、ガリッゴリッと、恐ろしい音が重く響いた。
残された森尾たちは、腰を抜かして、はいずるように光の方へ進んだよ。

それ以上、ヤツらは追ってこなかった。
もしかしたら、光に弱いのかもしれないな。
だけど、あの穴とあいつらって、いったい何だったんだろう?
俺、ちょっと地獄の亡者……とか思っちゃったけどさ。
でも、ウロコがあるなんて聞いたことないよな。

それから、しばらくして、空き地にブルドーザーが入った。
穴を埋め立てようとしたらしいんだけどさ。
いくら土砂を入れても、穴はふさがらなかったんだって。
そんなことがあってから、うちの学校のヤツらは、誰もそこで遊ばなくなったんだ。

ううん、近寄るのだってやだぜ。
ヤツらが、外に出てこないって保証は、どこにもないもんな。

これが、死の世界に通じる空き地の話だよ。

(→聞いていない話がある場合)
(→全ての話を聞いた場合)
(→全ての話を聞いたが、「6.生きている骸骨」の話の最初の選択肢で「3.百六十センチは、絶対にないわよね」を 選んでいる場合)