晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>AH4

そうだよな。
あったかいもん飲むと、腹の中があったまって、なんとなくホッとするもんな。
ミチルも、そうしたんだ。
台所まで行って、やかんを火にかけた。
その瞬間、電話が鳴ったんだよ。

音はすぐやんだから、ミチルは母親が取ってくれたんだと思った。
そして、お茶を運びながら聞いたんだ。
「電話、どこからだったの?」
「何いってるの、ミチルちゃん。
電話なんて、かかってこなかったわよ」
ミチルはビックリした。

さっき、確かに電話のベルが鳴ってたはずだ。
なのに、どうして『かかってこない』なんていうんだろう?
ミチルは不思議に思って、電話のところへ行こうとしたんだ。
そしたら、母親が腕をつかむんだよ。

「どこ行くの! ママの側に、座っててちょうだい!」
そういって、にらみつける目はギラギラして、血走ってた。
ミチルは怖くなって、手を振りほどいたんだ。

「大丈夫よ、ママ。電話の受話器が、ちゃんとかかってるか確かめるだけ」
「ミチルちゃん!」
母親が叫んだけど、ミチルは無視して電話の側に行った。
そして見たんだ。
電話のコードは、根本から引きちぎられていた。
ミチルは母親に振り向いた。

「ママ!?」
「ご、ごめんなさい、ミチルちゃん。電話で他の人と話したら、パパの死が決定的になりそうで……怖かったのよ」
母親は、泣きそうな顔をしてた。

こういう心の動きって、葉子ネエは理解できる?
1.できる
2.よくわからない