晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>AH5

ふーん、そうなんだ。
俺には、よくわかんないんだよな。
ミチルの母親、ショックでちょっと変になってたんじゃねえの?
だから、ミチルもちょっと、ビビッちゃってさ。
母親はフラッと立ち上がった。

「ミチルちゃん……なぜ、そんな顔してるの? ママの側にいてちょうだい」
両手を伸ばして、ミチルの腕をつかむ。
きれいに整えられた爪が、ミチルの皮膚に食い込んだ。
血がにじみ出てるのに、母親は気づかないみたいだ。

目を見開いて、ミチルを見つめている。
「ミチルちゃん……ママの側にいて」
「や、やだあっ!」
ミチルは母親を突き飛ばして、廊下に逃げ出した。
「待って、ミチルちゃん!」
母親が、後を追いかけてくる。

ミチルにはもう、いつもの母親とは別人にしか思えなかったって。
父親の事故のショックで、パニック状態なのかもしれない。
だけど、このまま側にいたら、ただじゃすまないって感じたんだよ。
しょうがなくて、ミチルは外に飛び出そうとした。

靴も履かないで、ドアを押し開ける。
「うわっ」
外にいた誰かが、あわてて飛びのいた。
見ると、父親が立ってるじゃないか!
幽霊か!?
ゾッと鳥肌が立った。
悲鳴をあげようとしたとき。

「ミチル、家に帰ってたのか。事故のことを聞いたんだな」
父親が、そういったんだ。
「おまえも辛いだろうが、これから頑張っていこうな」
そんなことをいって、涙ぐんでるんだよ。
ミチルはわけわかんなくなって、キョトンとした。

「だ、だって……パパ、事故で死んだんじゃなかったの?」
「何をいってるんだい。死んだのはママじゃないか。生け花の展覧会から帰る途中……」
嘘だ、ママはそこに……!!
ミチルは、ぎょっと後ろを振り向いた。

そうしたら……まっすぐ伸びた廊下には、誰もいなかったんだ。
しばらくして、ミチルと父親は引っ越してったんだ。
家も取り壊されて、空き地になった。
だけど、ミチルの母親の霊は、まだそこに残ってるんだって。

それに、中学生くらいまでの子供が、その空き地で遊んでると、いつの間にか一人、いなくなるんだってさ。
きっと、ミチルの母親が、ミチルを捜してるんだと思う。

寂しいのかもしんないな……。

これが、死の世界に通じる空き地の話だよ。

(→聞いていない話がある場合)
(→全ての話を聞いた場合)
(→全ての話を聞いたが、「6.生きている骸骨」の話の最初の選択肢で「3.百六十センチは、絶対にないわよね」を 選んでいる場合)