晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>AI5

そうだよな、わかんないよな。
だけど、ミチルにはわかったのかもしれない。
母親の隣に行って、手を握ってやったんだ。
「ママ、頑張ろう。二人で頑張ろう」
って、何度も繰り返してさ。
母親は、ポロポロ涙をこぼした。

そしてミチルを抱きしめたんだよ。
ミチルも泣きそうになりながら、母親にすがりついたんだ。
そのとき、背中にものすごく熱い衝撃があったんだって。
ボタボタッと、足元に何か落ちる。
見ると、真っ赤な血なんだ。

「ぎゃははははっ!!」
母親が、うんと下品に笑いながら、ミチルから離れた。
手には血のこびりついた肉切り包丁。
そして、隣の部屋のドアを、バンッと開けたんだ。
中から転がり出たのは、胸から血を流した、ミチルの父親だったよ。

「ぎゃははははっ!!」
それから、ミチルの母親は、持ってた肉切り包丁で、自分の首を横一文字に切り裂いた。
ブシューッと血が吹き出す。
「ひゃひゃひゃ……」
空気が漏れたような声で、それでも母親は笑ってたって。
……葉子ネエさあ、通り悪魔って妖怪、知ってる?

道を歩いてる人間にとりついて、凶暴にさせるんだって。
通り魔って言葉は、その妖怪からとったんだってさ。
俺、マンガで読んだんだけど。
ミチルの母親もさあ、そういうモノにとりつかれたのかもしれないよな。

事件からしばらくして、家が取り壊されて、空き地になったんだ。
今でも、そこを通りがかると、苦しそうなうめき声が聞こえるんだって。
ミチルの家族か、それとも妖怪なのか、わかんないけど。

ただ、そこの空き地に入ると、熱が出て三日以内に死んじゃうんだってさ。
だから、通り悪魔だとしたら、まだ呪いが残ってるんじゃん?

これが、死の世界に通じる空き地の話だよ。

(→聞いていない話がある場合)
(→全ての話を聞いた場合)
(→全ての話を聞いたが、「6.生きている骸骨」の話の最初の選択肢で「3.百六十センチは、絶対にないわよね」を 選んでいる場合)