晦−つきこもり
>七話目(前田和子)
>P12

とっさに、近くの大広間へ駆け込んだ。
誰でもいい。
誰か……!
「……き……っ」
もう、叫び声も出なかった。
大広間に、何人もの親戚が倒れている。
殺されてるの?

私は、恐る恐る一人一人の顔を覗き込んでみた。
「……息をしてるわ」
みんな、眠っているだけだった。
私の父や、母もいる。
「お父さん! お母さん!!」
駄目。
いくら揺すっても起きない。

みんな、布団も敷かずに、バラバラの格好で転がっている。
まさか、薬か何かで眠らされた?
犯人は、とっくにこの家に来ていたの?
さっき襲ってきたのも、どこかで私達が出かけるのを見たから?

外に逃げ……ううん、こんな夜中にどこにいけというの?
隣の家さえ、車で行かなきゃならないような所よ。
そうだ、他のみんなは大丈夫かしら?

私は、開かずの間へと進んだ。
……そこには、誰もいなかった。
和子おばさんと、良夫の死体が寝かされている。
みんな、どうしたんだろう。
「葉子ちゃん……」
急に声をかけられ、ヒヤリとした。
正美おばさんだわ。

「あの、みんなはどうしたんですか?」
「……葉子ちゃん、さっき、見たでしょう」
正美おばさんは、私の質問には答えず、そんなことをいいだした。

「えっ、何のことですか?」
「良夫くんを、石段からつき落としたのが誰か、見たんでしょう?
あの時、懐中電灯で照らしていたじゃありませんか」
「えっ……」
その時、ふすまが開き、哲夫おじさんが入ってきた。

「由香里ちゃんと和弘さんが戻ったよ。今、玄関のところにいる。
すぐこっちに来るぞ」
正美おばさんは、表情をわずかに曇らせた。
「葉子ちゃん、
石段のところで由香里ちゃんと和弘さんに会いました?」
1.会ってない
2.どうして?