晦−つきこもり
>七話目(山崎哲夫)
>A5

ちょっとだけ……。
ちょっとだけ、覗いてもいいかしら……。
本当に不安なの……。
襖を一枚隔ててるだけなのに、向こう側にまったく人の気配がないんだもの。
それに、なんだか胸騒ぎがする……。

……何でもなければいいんだけど。
じゃ、ちょっとだけ開けるね…………。
確かこの部屋には、由香里姉さんが泊まってるはず……。
「ひっ……!!」
襖を開けた瞬間、私は声にならない悲鳴を上げていたわ。

月明かりに照らされた畳の上に、首筋から血を流した由香里姉さんが、仰向けに横たわっていたの。
月の光を浴びた、その顔は紙みたいに白い……。
部屋の中には、人影がもう一つあったわ。
部屋の隅の暗がりで、じっと私を見つめる二つの目。

そのギラギラと輝く目は、正美おばさんのものだったの!
「あら、見つかっちゃいましたわね……」
正美おばさんは口許の血をぬぐいもせずに、そういって微笑んだわ。
赤い唇の下から覗く白い歯が、月明かりを反射してキラリと光る……。

「葉子ちゃんも飲みます? 喉の渇きには、これが一番ですわよ」
私に、由香里姉さんの血を飲めっていうの!?
1.飲む
2.飲まない