晦−つきこもり
>三話目(前田和子)
>J4

「あははは……」
おっかしい、良夫ったら。
ほんとに子供なんだから。
「笑うなよお」
あ、ふてくされた。

それにしても由香里姉さんったら、話すだけ話して逃げちゃうなんて。
「良夫、由香里姉さんにちょっと謝ってくれば?」
「ええ? なんでだよ」

「そうしたら戻ってきてくれるかもしれないでしょ。眠いなんて嘘かも。みんながいたほうが楽しいじゃない」
「そうかあ?」
不満気な顔して。

「ほら、いくわよ」
「ちえっ」
良夫は、ぶつぶついいながらも立ち上がった。

「由香ちゃんは、つきあたりの間よ。寝ていたら、そのままにしてあげたほうがいいと思うけど」
和子おばさんが、部屋の場所を教えてくれた。
私と良夫で行ってみる。

「由香里姉さん……あ」
部屋には、誰もいなかった。
布団が一組敷いてあるだけ。
「どこに行ったのかしら」
「由香里ネエって、ほんとに幽霊の『ゆっちゃん』だったりして」
「良夫、やめなさいよ」

「布団がぐっしょり濡れてたら嫌だな」
「あのねえ……」
良夫って、どうしてこうなんだろう。
そんなことがあるわけないじゃない。
突然、背後でふすまが閉じた。
……え?

どうして?
ここには他に誰もいないのに……。
「うわあああっ!!」
突然良夫が叫ぶ。
「かっちゃんよね、あんたは、かっちゃんなのよね……」
どこかで声がした。
この声は……?

良夫は、何者かに首を絞められているようだった。
「ぐう……がっ」
苦しげな声。
「良夫……!」
駄目。
助けたいけど、体が動かない。

「どうしたの!? 何かあったの?」
突然、ふすまが開いた。
助かった!!
和子おばさんだわ。

「か、和子おば……」
「葉子ちゃん?
どうしたの?」
「良夫が……」
「良夫?」
良夫は、床に倒れてぐったりしていた。

「一体何があったの?」
……うまい言葉がみつからなかった。
「突然良夫が苦しみだして……」
「かあちゃん、おれ、首を絞められたんだよ」

「ええっ!?」
一瞬、和子おばさんににらまれる。
「葉子ネエにじゃないよ。きっとゆっちゃんだ。
ねえ、由香里姉って、本当にゆっちゃんなんじゃないか?」

「バカなこといわないで。由香ちゃんは、また客間に戻ってきたんだから。やっぱりみんなの話が聞きたいって。ちょうど入れ違いになったのね」
……一体、どういうことなんだろう。
怖い話なんてしてたから、変な霊がよってきたとか。

「あっ、わかった、あんたたち、私をだまそうとしてるんでしょ。
しょうがないわねえ……とにかく客間に戻りましょ」
「かあちゃん、嘘じゃないよ」
「はいはい、さ、葉子ちゃん、行きましょう」
和子おばさんに肩をたたかれる。

どうしよう。
このまま、怪談なんかしていいのかしら。
面白半分に変な話をしていたら、バチがあたるかも。
今日は、七回忌の夜なのに……。

怖い話なんて、もうやめようっていおうか?
1.やめよう
2.いや、続けよう