晦−つきこもり
>七話目(鈴木由香里)
>F9

せっかく来てくれたのに、入れてあげないと可哀想ね。
たとえ泥棒とか、殺人犯とかでも大丈夫よ。
だって、哲夫おじさんがいるんだもの。
声の感じからして、相手が大人数ってことはないと思うの。
だから私、立ち上がって障子を開けようとしたわ。

その瞬間、障子とは反対側にある襖が大きく開いたの。
思いっきり不意を衝かれちゃった。
……そこには一人の男の人が立っていたわ。
「やぁ、ごめんよ。葉子ちゃん、どうしても待ちきれなくってさ。それだけ君に会いたかったってことさ」

そういって、男の人は微笑んだわ。

その人を見た瞬間、みんなは、ほんの一瞬だけど驚きを隠せないでいたわ。
なんだか、自分の知ってる奴に似てる……。
みんなそう思ってたんじゃないかしら。
でも、その人は他のみんなのことなんておかまいなしって感じ。

ズカズカと部屋の中に入って来ると、車座になってる私たちの中央に、ちょこんと正座したの。
そして、呆然としている私たちを見回して、

「君たちの身に、もうすぐ恐ろしいことが起ころうとしている……。
いいかい? 君たちは本当に、とんでもないことをしてしまったんだ!」
って、真顔で叱り始めたの。
君たちは、多くの死霊を敵にまわしてしまった。

『七回忌の晩に怖い話』っていう、神聖な儀式を汚してしまったからね。
儀式を行えば、死者が蘇る……。
それを知っていて始めたにもかかわらず、誰も怖い話をしなかっただろう。
それで、儀式が中途半端になってしまったのさ。

あの世とこの世の境目にある門が開いたのに、道が途切れてしまった……。
これじゃあ、この世に蘇るどころか、あの世に戻ることもできないって、死霊たちが怒ってるんだ。
ほら、聞こえるだろう?
ものすごい怒りを感じるよ。

霊っていうのは、イタズラや面白半分に扱われることを一番嫌うからね。
君たちは最大のタブーを犯してしまったのさ。
だから、今のこの状況は当然の結果というわけになるな……。
そうか……。
当然の結果なんだ……。

じゃあ、別に君たちを助ける理由はないのか。
1.そんなぁ、助けて!
2.別に助けてくれなくてもいい
3.本当に助けられるの?