晦−つきこもり
>七話目(鈴木由香里)
>K9

よく考えたら、私って、この声の主について何一つ知らないのよね。
そんな人を部屋に入れるなんて、とっても危険だわ。
強盗だったら……?
殺人鬼だったら……?
もしかしたら、その両方……?
そういう可能性だって、まるっきり否定はできないもの。

「おお、葉子ちゃん!
何を恥ずかしがっているんだい?
早くこの野暮な障子を取り払って、僕を迎え入れておくれ……!!」
それでも、私は答を出せなかったわ。
全く返事をしなかったの。
するとね……。

「わかったよ、なかなか君はシャイなんだね。シャイナ・ガール葉子って呼ばせてもらってもいいかな? えっ? 絶対、嫌? そうつれないこというなよ。君が開けてくれないんなら、僕から行くことにするよ」
その瞬間、障子とは反対側にある襖が大きく開いたの。

思いっきり不意を衝かれちゃった。
てっきり障子が開くと思ってたのに…………。
……そこには一人の男の人が立っていたわ。

その人を見た瞬間、みんなは、ほんの一瞬だけど驚きを隠せないでいたわ。
なんだか、自分の知ってる奴に似てる……。
みんなそう思ってたんじゃないかしら。
でも、その人は他のみんなのことなんておかまいなしって感じ。

ズカズカと部屋の中に入って来ると、車座になってる私たちの中央に、ちょこんと正座したの。
そして、呆然としている私たちを見回して、

「君たちの身に、もうすぐ恐ろしいことが起ころうとしている……。
いいかい? 君たちは本当に、とんでもないことをしてしまったんだ!」
って、真顔で叱り始めたの。
君たちは、多くの死霊を敵にまわしてしまった。

『七回忌の晩に怖い話』っていう、神聖な儀式を汚してしまったからね。
儀式を行えば、死者が蘇る……。
それを知っていて始めたにもかかわらず、誰も怖い話をしなかっただろう。
それで、儀式が中途半端になってしまったのさ。

あの世とこの世の境目にある門が開いたのに、道が途切れてしまった……。
これじゃあ、この世に蘇るどころか、あの世に戻ることもできないって、死霊たちが怒ってるんだ。
ほら、聞こえるだろう?
ものすごい怒りを感じるよ。

霊っていうのは、イタズラや面白半分に扱われることを一番嫌うからね。
君たちは最大のタブーを犯してしまったのさ。
だから、今のこの状況は当然の結果というわけになるな……。
そうか……。
当然の結果なんだ……。

じゃあ、別に君たちを助ける理由はないのか。
1.そんなぁ、助けて!
2.別に助けてくれなくてもいい
3.本当に助けられるの?