晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>C3

このままじゃ、話にならないし……。
しょうがないわ。
この際、良夫に催眠術をかけてもらおう。
ひょっとしたら、面白い話の一つくらい、思い出すかもしれないし。

そういうと、正美おばさんは美しく微笑んだ。
「いいですわ。それじゃあ、始めましょうか……」
「ええー、マジかよお」
ブツブツいいながら、良夫が横になる。
なんだかんだいっても、結構嬉しそうじゃない。

これなら、簡単にかかりそうね。
良夫、単純だし。
「さあ、良夫君……体の力を抜いて。ゆっくり息を吐いてください……」
穏やかな正美おばさんの声が続く。

「だんだん、まぶたが重くなっていきます……だんだん、気分が良くなっていくでしょう……さあ、力を抜いて……小さい頃を思い出してください……」
良夫のまぶたが、だんだん下がっていく。

「葉子ちゃん、質問はお願いしますわね」
正美おばさんが、顔を上げていうと同時くらいに、良夫のくちびるが動いた。
俺は、子守の姉ちゃんが怖かった……。
まだ『赤ん坊』だったのに、そんなこと思うのって変かな。
だけど、怖かったんだよ。

なんていうのかな……すごく気まぐれでさ。
母ちゃんが見てないときに、俺を突き飛ばすなんて、いつものことだった。
そのくせ、俺が泣き出すと、『よしよし』とかいいながら、抱き起こすわけ。
誰かさんと同じで、子供嫌いだったんじゃないの。

それなら、子守なんて引き受けなきゃいいのにさ……。
あいつは欲しいものがあって、この家にいなきゃなんなかったんだ。
1.欲しいものって?
2.他にも、ひどいことされたの?