晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>D6

「良夫、大丈夫? 苦しいの?」
私の呼びかけに、良夫の体がピクンと動いた。
…………ああ、うん。
大丈夫だよ。
……あいつは、小鳥のカゴから、一羽をつかみ出した。
それを、俺の手に握らせたんだ。
そうしておいて、もう片方をつかんでさ。

俺の目の前にかざして、ニコッと笑った。
それまで、やさしくしてもらってないじゃん。
嬉しくて俺、笑い返したよ。
そしたら、あいつ、小鳥を握った手を、ギュッと握りしめたんだ。
小鳥、鳴き声もあげなかったよ。
ぐったりした小鳥を握ったまま、あいつは俺に微笑んだ。

何だか、とっても楽しいことしてるようにさ。
だから俺も、マネして小鳥を握ってみたんだ。
……手のひらの上で、冷たくなってく体に、ちょっと泣きそうになったのを覚えてる。
だけど、あいつは俺をほめてくれた。
よくやったねって。

それから、俺はあいつと一緒に、いろんなことをしたよ。
いつだったか、猫を連れてきてさ。
近所でよく見かけた、でっかいヤツ。
そいつを仰向けに寝かして、両手両足を縛りつけたんだ。
それから、俺にナイフをくれた。

切れ味を試してごらん……なんて、いってたよ。
俺、猫の腹を切ってみた。
スーッと赤い筋がついて、そこからプツプツと、玉みたいに丸く血がわいてきたな。
そういうとき、あいつはすごく嬉しそうだった。
俺の頭をなでて、ほめてくれるんだ。

すごく嬉しかったな。
俺、あいつが笑ってる顔、好きだったんだもん。
それに、ホントに面白い遊びって感じだったしさ。
そういうことをやるときは、いつもお手本を見せてくれるんだよね。

まだ小さい俺じゃあ、手を出せないような獲物も、捕ってきてくれたしさ……。
1.獲物って、例えば?
2.そんな残酷なこと、信じられない!