晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>D7

獲物は、ホントにいろんな種類を試したよ。
鳥や猫、それに犬……。
犬といえば、ばあちゃんの飼ってたペスだよな。
なんでだか知らないけど、あいつのことを、すごく嫌ってた。
近づくだけで、歯むき出して、うなるんだ。

それに腹たてたあいつが、ペスをけっ飛ばそうとした。
そしたら、ペスは足にかみついちゃったんだよ。
あいつ、傷口を押さえながら、ものすごい顔したっけ。
怖くて俺、ベソかいちゃったもんな。
あいつは落ちてたマキを拾って、ペスを殴った。

何回も、何回も、動かなくなるまで。
それから、血のついたマキを放り捨てて、どっか行っちゃったんだよ。
俺、怖くて、その場を動けなくてさ。
一人で泣いてたら、母ちゃんが来たんだ。

母ちゃんは、俺から話を聞くと、ペスの体を毛布でくるんで、家の中に運び込んだよ。
それで、台所の台の上に載せて、怖い顔で俺に何かいってたっけ。
ええと……確か、こんなことだったかな。
あの娘は、悪魔の子だ。
このままでは、おまえは陥れられてしまう。

おまえを守るためには、これしかないのよ。
ペスは、もう助からないし……。
そういって、母ちゃんはペスの体に、包丁を突き立てた。
死んだと思ってたペスが、その瞬間ものすごい悲鳴をあげたの、覚えてるよ。
あとは……真っ赤だったこと。

辺り一面真っ赤に染まって、すっごくきれいだったんだ。
母ちゃんは、まだ暖かいペスの心臓を、俺に持たせた。
そして、いったんだ。
前田本家に逆らうつもりなら、その覚悟はできてるはずさ……って。
俺の目の前に、あいつを連れてきてさ。

ペスの心臓を、顔になすりつけろっていわれた。
それで俺、わかったんだ。
母ちゃんも、俺たちの遊びに参加しようとしたんだってね。
何だか楽しくなって、いわれたとおり、真っ赤な心臓を顔にくっつけた。
嬉しくて、自然に笑っちゃったなあ。

あいつは何か叫んで、気絶しちゃったけど。
そしたら、母ちゃんはそいつを担ぎ上げて、俺を見たよ。
ケガのコウミョウで、お供えが手に入ったって。
これを、『おふるど様』に捧げれば、俺が跡取りになるのに役立つって、いってたっけ。

「もうやめなさい、良夫!」
和子おばさんの厳しい声が、張りつめた部屋の中にピシリと響いた。
催眠状態の、良夫の体が、ビクッと跳ね上がる。
私の体もこわばっていると思う。
だって、良夫の過去に、そんなことがあったなんて。
それに何より、今の話。

さっきの由香里姉さんの話と、あまりにも似すぎてるわ。
『おふるど様』っていうのは、たぶん『お古井戸様』が、なまったんだ。
ということは……!?

私たちは、由香里姉さんを見た。
1.良夫の子守って、由香里姉さんだったの?
2.どっちの話が本当なの?


◆最初の選択肢で「2.嫌よ」を、2番目の選択肢で「2.やっぱりやめておこう」を選んでいる場合
2.どっちの話が本当なの?