学校であった怖い話
>一話目(新堂誠)
>F3

そうだ。
あいつ進学のことで悩んでてさ。
親がすごかったらしいぜ。
吉岡を絶対T大にいかせるとか何とか、無理なことを言っていたそうだ。
あいつはおとなしいから、ただ従っているだけ。
それで、俺のことがうらやましいなんて言うんだ。

俺みたいに、堂々としたいって。
親にも先生にも自分の考えをはっきり言える勇気が欲しいってな。

俺は思ったね。
人にうらやましいなんて言ってるようじゃ、こいつはダメだってね。
だから、言ってやったんだ。
何か、自信がつくようなことをしてみろって。
それで、もちかけたのさ。

例の鏡の話をね。
「旧校舎の三階へ行く階段に鏡があるだろ?そこに自分が使っている手鏡を持っていき、合わせ鏡をするんだ。

時間は、夜中の三時三十三分三十三秒でないといけない。
すると、そこで何かが起こるっていうぜ。何が起こるかわからない。親や先生より、よっぽど怖いぜ。どうだ、試してみる勇気はあるか?」

俺がそう言うと、吉岡はしばらく目を丸くしていたね。
「新堂君、何でそんなこと知ってるんだい?」
そんなことを言ってな。
俺はこのことを、昔の文芸部が発行した、古い自主制作の本で読んだんだ。

もちろん、そんなの信じちゃいなかった。
信じちゃいなかったけど……。
ちょっと肝試しをするぐらいの気持ちだったんだ。
本にはな、この方法で危険な目にあった人が実際にいるから、絶対にまねをするなと書いてあったけどな。

<危険な目>って何かって?
今、話すよ。
正直言って、俺は後悔しているんだ。
俺が鏡の話なんか持ちかけなければ、あんな事件は起こらなかったんじゃないか、とね。

吉岡は、肝試しで自信をつけるどころか……。
……いや、とにかく聞いてくれ。
あいつは、その文芸部の本を読んでみたいと言ってきた。
俺は教えてやったよ。

旧校舎の図書室にあるってな。
あそこには、整理されていない本がいろいろあるだろ?
時々、古いめずらしそうな本とかもあって、異様な雰囲気なんだよな。

吉岡は、
その本を読みに行ったよ。
そしてこう言った。
「合わせ鏡を試して見よう。僕はやるよ。僕は、あの本を隅々まで読んだ。文芸部の別冊も見つけたよ。あの鏡について、いろいろくわしく載っていた。今日の夜中、待ちあわせをしないか?」

その時の吉岡の目といったら。
……異様な光があったね。
俺が読んだ本には、何かが起こるとしか書かれていなかった。

しかし吉岡は、どんなことが起こるのかを書いた本も見つけたと言うんだ。
奴はその内容に強い関心を持ったらしい。
俺は、OKしたよ。
なんだか、嫌な予感を感じながらな。
……それでだ。

俺達は夜中の旧校舎で待ちあわせをした。
夜中の学校って、どんなだかわかるか?
暗いと思うだろう。
実は、意外と明るいんだ。
夜は暗いぜ、怖いくらいにな。
でも夜中だと空が白んで、月明かりが案外きれいなのさ。

俺は何だかわくわくしたね。
この体験を、後でクラスの奴に自慢してやろうなんて思いながらな。
それがどうだ。

旧校舎に入った途端、空気が一変した。
……ここには何かがある。
そんな感じなんだ。
俺達は半ばかけ足で、例の鏡の所へ急いだ。

そして、目的の時間になるのを待ったんだ。
吉岡が持ってきた鏡と、踊り場の鏡で合わせ鏡をしてな。
「何だよそれ、女が使うような鏡だな」
俺は言ったね。

何か話していないと不安だったんだ。
もしかしたら本当に何か恐ろしいことが起こるような気がしてな。

吉岡が持ってきたのは、古ぼけた丸い化粧鏡だった。
家の洗面所にあった物らしい。
風呂上がりなどに奴がよく使う鏡だと言っていた。

そうこういっている間に、
三時、三十三分、三十三秒……。
その時はやってきた。
そして、どうなったと思う?
1.悪魔が飛び出した
2.死ぬ時の顔が映った
3.呻き声が聞こえた
4.何も起きなかった