学校であった怖い話
>一話目(新堂誠)
>R5

もう、踊るしかない!
俺はそう思ったね。
何でそう思ったかって?
………混乱していたんだと思う。
俺は、とりあえず去年の体育祭で踊ったダンスを踊ってみることにした……。

……わけないだろ、変なこと言わすなよ。
まったく。
おまえまじめに聞く気があるのか?
止めた止めた。
ここでの話はもうしてやらないよ。

とにかく、俺は金縛りをといて、結局学校に言ったんだ。
鏡を持つ吉岡の姿は、夢だったんだよ。
俺は、眠れない眠れないと思いながらもいつしか眠っていたんだな。

この夢のせいで、何だか吉岡のことが気になってな。
俺は学校に向かうことにしたんだ。

夜中の学校は気味悪かったぜ。
もし吉岡がいなかったら、どうしようかって思ったけど、あいつはいたよ。
校門の前に、まるで幽霊みたいにぼーっと、突っ立っていたんだ。

懐中電灯をもってね。
それで俺のことを見つけると、手にした懐中電灯を振り回して近づいてきた。
笑えばいいものを、あいつはニコリともしなかったな。
緊張しているのか、顔を汗でじっとりと濡らして、無表情で俺のことを見ていた。

「待っていたよ。これから、僕たちは霊界を見ることができるんだ」
そういう吉岡のほうが、よっぽど幽霊みたいに不気味だったぜ。

「霊界は、いろんな形で現れるんだってさ。どんな形で僕たちの前に現れるのか、その時になるまでわからないんだ」

そういいながら、あいつはもっていた紙袋の中から薄汚れた手鏡を取り出したんだ。
丸い、女の人が持っているような化粧鏡だ。
それを、
俺にチラチラ見せるんだ。

「夜中の三時三十三分三十三秒にね、自分がいつも使っている鏡を、踊り場の鏡に合わせるんだよ。すると、二つの鏡が映りあって、そこに不思議なものが見えるんだってさ。見えるだけじゃない。何かが出てくるかもしれない。
楽しみだよ」
そういうあいつの顔は無表情でちっとも楽しそうに見えなかった。

夜中の学校は、メチャクチャ怖いぜ。
新校舎だって不気味なのに、俺たちがめざすのは旧校舎だぜ。
その怖さがどれくらいのものか、お前にだってわかるだろう?
お化け屋敷だってあそこまで怖くはないな。

吉岡の奴は、意外と度胸があるんだよ。
俺でさえ結構びびっていたのに、あいつはスタスタと早足で歩いていくんだ。
真っ暗な学校を薄暗い懐中電灯一つで、どんどん進んでいくのさ。

俺はついていくのがやっとだった。
旧校舎に入っても、あいつは物怖じ一つしなかったな。

夜中だと、床板を踏む音が、やけに大きく聞こえるんだ。
きぃきぃきぃきぃ、ガラスを爪で引っかくような音が辺りに響くんだ。
ほかには何も聞こえないだろ?
だから、その音が妙に耳につくんだよな。

昼間だとあまり感じない古くさい腐った木の臭いも、夜中だとはっきりと感じるんだ。
その臭いだけが、息を吸い込むと、むっと口中に広がるのさ。

「ついたよ。もうすぐ三時三十三分だね」
突然、あいつの足音が止まり、懐中電灯が鏡を照らしたんだ。

霊界の鏡だって?
冗談じゃない。
こんなの、ただの鏡さ。
俺は、自分に言い聞かせたよ。
そうでもしなきゃ今にもその鏡に吸い込まれそうな気がしたんだ。
「三時三十三分だ。鏡を合わせておくからね。
いいかい? 何があっても、驚いちゃだめだよ」

そういうと、吉岡は手にした化粧鏡を踊り場の姿見の前に差し出したのさ。
すると、どうなったと思う?
1.悪魔が飛び出した
2.死ぬ時の顔が映った
3.呻き声が聞こえた
4.何も起きなかった