学校であった怖い話
>二話目(荒井昭二)
>I5

電話は、職員室にもありますし、公衆電話もあります。
それでも、こうしてゆっくりしている間にも、何か問題が起こったら大変だ。

そう思うと、すぐに旧校舎に向かったのです。
もしかしたら、旧校舎の側で、何か別のものが光っているかもしれない。
それとも、見間違いかも。
そんなことを思いながら、小走りに向かうと……。

旧校舎の二階の一角が、ぼんやりとした明かりに包まれているじゃないですか。
「……誰かいるんだ」
桜井先生は、思わずそう呟くと、懐中電灯を握りしめ、旧校舎に飛び込んだのでした。

心もとない明かりを頼りに、ギシギシときしむ階段を踏み外さないように、確かめながら上りました。
上ってみて、桜井先生は自分の目を疑いました。

今まで灯っていた明かりが、消えているじゃないですか。
いま上がってきた階段から、二つ先の教室辺りが、確かに光っていたのです。

桜井先生は、息を殺しました。
たぶん、明かりをつけた犯人は、自分が来たことに気づいて、急いで明かりを消したんだ、と。
そうなれば、こちらも慎重に行動しなければなりません。
相手が何者だか、わからないのです。

もし、不意をつかれて物陰から襲われたら、ひとたまりもありません。
桜井先生は、懐中電灯を消しました。

突然、完全なる闇が襲ってきました。
たった一つの懐中電灯の明かりも、あるとないとではこれほどまでに違うのかと、改めて思い知らされました。
思わず、もう一度スイッチを入れてしまおうか迷ってしまったほどです。

それでも何とか思い止まり、恐怖をかみ殺しました。
一筋の光もありません。
月の明かりさえ、角度によって差し込んできません。
完全な闇の中を手探りで進むしかないのです。
「いつっ!」

突然、指先に激痛が走りました。
触ると、指先がじっとりと濡れていました。
なめてみると、血の味でした。
恐る恐るもう一度手を伸ばすと、割れた窓ガラスで切ってしまったようでした。
完全な闇といっても、ある程度時間が経つと、次第に目が慣れてきます。

おぼろげながら、旧校舎の姿が感じ取れるようになりました。
だからといって、容易には動けません。
割れた窓ガラスや突き出た古釘があちこちにあるのです。
桜井先生は、耳を潜めました。
誰かいるのならば、物音が聞こえるはずだ。

相手も息を殺していたとしても、ここは旧校舎だ。
少しでも体を動かせば、床板が音を立てる。
その時を待とう。
桜井先生は、じっと耐えました。
しかし、一向に音は聞こえてきません。
まるで、誰もいないかのように。

「……くっ。しぶとい奴だな」
舌打ちすると、仕方なく桜井先生のほうから動きました。

二階は、一階よりも床板が腐っているのか、辺りがひっそりと静まり返っているだけに、床板のきしむ音はいっそう大きく響きました。
まるで、苦痛に悶えながら死んでいった人たちの怨念が呻いているような、そんな音が歩くたびに聞こえてきました。

……本当に、いるんだろうか?
急に、桜井先生は不安になりました。
そして、自らの恐怖をかき消すために、現状を打破しようとしました。

もう、これ以上は耐えられなかったのです。
1.懐中電灯をつける
2.大声を張り上げる
3.床をドンドンと鳴らす