学校であった怖い話
>三話目(荒井昭二)
>A3

そうですよね。
僕はね、人間だったら、誰でもそういうことを考える一瞬があるんじゃないかって思うんですよ。
そんなことできないと頭ではわかっていても、考えてしまう。
ご存じですか、そういう感情のからくりを。

人に、絶対してはいけないと思うことをいってもらうとします。
その答えは、実はその人が心の奥底でしたいと思っていることなんだそうですよ。
絶対できないという感情は、してみたい、という思いをひきおこす鍵となるそうです。
……怖いと思いませんか。

新校舎の屋上から飛び下りたらどうなるか。
その思いは、ある男子生徒の心を蝕んだんです。
彼は相沢信彦という名前でした。
相沢さんは、それまで本当に普通の人だったそうですよ。

でも……。
心の奥底に、どす黒い誘惑を芽生えさせてしまったんです。
あの高い屋上から人が飛び下りたら……。
どうなるんだろうか。
いったい、どうなるんだろう。

肉は、どうなるんだろう。
骨は、どうなるんだろう。
声は、どうなるんだろう。
周りの人は、どうなるのだろう。

飛び下りて上を見上げたら、どう感じるのだろう。
頭から飛び下りたら、どんなにゾクゾクするのだろう。
地面に腕から落ちたら、どんな格好になるのだろう。
着地する瞬間に、血しぶきは顔にかかるのだろうか。

それは冷たいだろうか。
あるいは熱いのだろうか。
浮遊感はどんなだろうか。
自由に空を飛ぶ感じがするのだろうか。
奈落の底に落ちる感じだろうか。

落下中はどうなるのだろう。
後悔するのだろうか。
怖いと思うだろうか。
それとも気持ちいいのだろうか。
誰かを思い出すだろうか。
誰のことも思わないのだろうか。
………。
次から次へと、疑問がわいてきます。

そこで相沢さんは、ノートをつけました。
疑問点を、一つ一つ丁寧に書き込んでいったのです。
彼は、中でも重要だと思える項目をピックアップしていきました。
そして、どうしても気になる項目を一つ選び出したのです。
それは、こういう一文でした。

屋上から人が飛び下りたら、本当に死ぬのだろうか……。
これが、彼にとっては最も重要な事に思えたのです。
彼は、思い悩みました。
どうしても、屋上から人が落ちるのを見たい。
そして、助かるのかどうかを知りたい……。

欲望が完全に成長を遂げました。
そして、彼は踏み出してはならない一歩を踏み出す決意を固めたのです。

問題は、誰がその実験の犠牲者になるか?
そう思った時点で、もう彼は悪魔に魅せられていたのかもしれません。
1.自分
2.気に入らない先生
3.気に入らない生徒