学校であった怖い話
>三話目(荒井昭二)
>S3

……そうですか。
ないんですか。
それじゃあ、やっぱり僕が異常なんでしょうか。
でもね、人間だったら、誰でもそういうことを考える一瞬があると、僕は信じてますよ。
それが、人間の弱さってものだと思います。

それで、学校の屋上のことが気になってしまった彼は、たまたま自虐的になってしまう瞬間が、連続して起こっただけじゃないでしょうか?

その彼って、名前を相沢信彦といいました。
彼は、至って本当に普通の人だったらしいんですよ。
だから、なおさら僕はそう思ってしまうんです。

「なあ、この校舎の屋上から飛び下りたら、助かるかなあ?」
「信彦。お前、頭どうかしちまったんじゃねえのか? いきなり、何いいだすんだよ」
友達に相談しても、そういって笑われたそうです。

相沢さんが真顔で言えば言うほど友達連中は、余計おもしろい冗談だと思って笑ってくれたそうです。
相沢さんは、普通の人でしたから。
それ以上しつこく迫るわけでもなく、友達が笑えば自分も一緒になって笑っていました。

それでも、一人になればなったで、思い悩みました。
どうしてそんなことが気になるのか、彼自身も自分が変になってしまったんじゃないかと思ったりもしました。
それでも解決方法は、実際に確かめるしかありません。

自分で飛び下りるか……。
それとも、ほかの人間を突き落とすか。
そう思うたびに、そんな馬鹿なことを考えてはいけないと自分に言い聞かせていました。

それでも、我慢すればするほど、欲望は抑えきれなくなるものです。
その欲望が強ければ強いほど、なおのことです。
日が一日一日と過ぎていけば、欲望もまた成長し、押し込めようとする理性という殻を破るのは時間の問題でした。

彼は、ノートをつけました。
ノートには、クラスメートの名前を始めとした学校関係者の名前が乱雑に記されていました。
上級生や下級生や、先生の名前まで。
彼は、屋上から突き落とすべき人材の選択を始めたんです。

そして、そのリストのトップには自分の名前がありました。
それが、彼のかろうじて残っていた最後の理性のかけらだったのかもしれません。
もう、我慢できない。
どうしても、屋上から人が落ちるのを見たい。
そして、助かるのかどうか知りたい!

欲望は完全に成長を遂げました。
そして、彼は踏み出してはならない一歩を踏み出す決意を固めたのです。

問題は、誰がその実験の犠牲者になるか?
そう思った時点で、もう彼は悪魔に魅せられていたのかもしれません。
1.自分
2.気に入らない先生
3.気に入らない生徒