学校であった怖い話
>三話目(細田友晴)
>K4

そうだよね。
その通りだと思うよ。
みんなも、何だかんだいって信じなかったのさ。

実は、誰も見ていない隙を狙って、必ずトイレに行っているはずだと、誰もが内心は思っていた。
もしくは、異常にトイレに行く回数の少ない人間なのかもしれないとね。
僕も、実際は竹内さんのこと、すごい人だなあと思う程度で、それ以上に興味を持つほどじゃなかったよ。

トイレに行きたくないなんて、僕はあまり思わなかったし、考えなかったからね。
どっちかっていうと、トイレで味わえる独特の解放感が、僕は好きだったしね。
デリカシーがないのかな?

だから、竹内さんのことは僕のほうが一方的に知っているだけで、向こうは僕なんか存在さえ知らなかったわけさ。
接点なんか、あるわけないしね。
ところがだよ。

何と、ある日竹内さんから僕に話しかけてきたのさ。
僕は、もう驚いちゃったよ。
食堂で昼御飯を食べていたら、突然、
「ちょっと隣、空いてるかな?」
とか言ってきて、勝手に座るんだもの。

竹内さんは、仮にも学校内で有名人だし、先輩だろ?
おまけに初対面だ。
僕はドキドキしちゃってさあ。
「あ、空いてますです」
とか言って、緊張してたんだ。

でも、竹内さんて、けっこう気さくな人でね。
いつもニコニコしていて、話しやすい人だったんだ。
竹内さんは、大きなトレイにカレーライス三杯と大盛りうどんを乗せててね。
誰か一緒に来るんだろうと思ってたら、見る見るうちにそれを全部平らげてしまったんだよ。

僕もけっこうよく食べるほうだけれど、あれには驚いたなあ。
食べ終わっても、顔色一つ変えずに、ケロッとしてるんだから。
痩せの大食いとは、よく言ったもんだよなあ。
あの身体のどこにあれだけのものが入るのか、僕はまじまじと竹内さんの身体を見ちゃったよ。

あれだけ食べておきながら、トイレに行かないわけだろ?
妙に感心しちゃってさあ。
やっぱり、向こうも僕の態度に気づいたんだろうな。
「僕がこんなに食べるの不思議だろ?」
って、突然言い出したのさ。

僕は、ただ頭をかきながらペコペコしていた。
「はあ」
とか
「まあ」
とか、適当にごまかしてさ。

それで、その日は終わったんだ。
僕も、それきり忘れてた。
というより、別に気にしていなかったのさ。
竹内さんは、たまたま僕の隣に座っただけで、別に僕と話したかったわけじゃない。

あの人は、誰とでも親しく話すみたいだから、そのとき隣にいた僕にも気軽に話しかけたんだ、とね。
誰だってそう考えるのが当たり前だろ?
ところが、だ。
それ一回きりじゃなかったんだよな。

二度目は、偶然、廊下をすれ違ったときだった。
竹内さんは、いつものように女の子をたくさん引き連れていてね。
「よおっ!」
って僕にあいさつしてくれたのさ。
僕は、びっくりしちゃってね。
まさか、食堂で偶然、隣り合わせただけの僕の顔なんか、よく覚えてるもんだって感心しちゃったよ。

僕も、慌ててあいさつしたけれど、竹内さんは相変わらずニコニコしながら向こうへ行っちゃったんだ。
別に、僕はミーハーってわけでも男が好きってわけでもないけどね。

やっぱり、ドキドキするもんだぜ。
有名人と知り合いになるっていうのは。
そのころからだったな。
僕が竹内さんのことを意識し始めたのは。

もしかしたら、僕と友達になりたいのかもしれないって、勝手に思い込んだ。
何で僕なんかと友達になりたいのか根拠はまったくないんだけどさ。
ただ、何となくね。

それでも、自分のほうから話しかける度胸はないし、もし勘違いだったら恥ずかしいじゃないか。
だから、想像するだけで実行には移さなかった。

そして、三度目の事件が起きたのさ。
あれは、学校の帰り道のことだった。
僕がとぼとぼと歩いていると、後ろで呼ぶ声がするじゃないか。

驚いて振り返ると、竹内さんが手を振りながら僕のほうに走ってくるんだ。
僕は、周りを見回してね。
きっと、僕以外の誰かに手を振ってるんだ、と。

でも、周りには、僕以外には誰もいやしない。
どう考えても、僕に対して手を振っている。
そんなことを考えていたら、竹内さんはいつの間にか僕の側に来ていた。

「いやあ、女の子たちがしつこくてさ。追い払うのに大変だったよ。僕なんかに付きまとっても、何もいいことなんかありゃしないのにな」
なんて息を切らしながら笑うんだ。
僕は相変わらず、ニヤついてペコペコしていた。

どうも、僕は人付き合いがヘタなのかもしれないな。
「君、細田君ていうんだろ?」
驚いたね。
何と、竹内さんは僕の名前を知っていたんだ。
僕がきょとんとしていると、大笑いしてね。

「何を驚いてるのさ。そんなに驚くことかい?
僕が君のことを知っていても、不思議じゃないだろ?」
そんなことを平気で言うんだ。
僕からしてみれば、十分すぎるほど不思議さ。
僕なんかのことをどうして知っているのか、僕自身が見当もつかないんだからね。

僕は、何を話していいのかわからなかった。
あがってたからね。
竹内さんはいろいろ話しかけてくれたけれど、実は情けないことに、あんまり覚えてないんだよな。
大したこと、僕は答えられなかったし。

「細田君、今日は暇なの?」
いきなり、そんなことを聞いてくるんだ。
僕は、戸惑っちゃってね。
どぎまぎしてたら、
「もし暇なんだったら、僕の家に遊びに来ないか?」
なんてことまで言い出したんだ。

どうして、竹内さんが僕を家に誘うのか、なおさら謎は深まるばかりさ。
どう考えても、理由が見つからないんだ。
なぜ、僕なのか?
どうして、僕なんかを家に招かなければならないのか?

そんなこと深く考える必要はないのかもしれないけれど、僕の性格だからね。
どうしても、考えてしまうんだよ。

僕は、なんて答えていいかわからなくてね。
竹内さんは、答えを待っているみたいだし……。
1.行きますと答える
2.ご遠慮しますと答える
3.今日は用事があるので別の日にしてほしいと答える