学校であった怖い話
>四話目(荒井昭二)
>G6

そうですか。
……やっぱりあなたって冷たい人ですね。
支配する側の人間って、そういうもんなんでしょうね。
平気で友達を見捨てられる。

あなた、そんな顔してますもんね。
でも、僕は違いました。
友達は大事ですからね。
袖山君のことが心配で、僕は部屋に戻ったんです。

……袖山君は寝てました。
頭まで被った毛布をもぞもぞ動かしてベッドに横になっていました。
……でも、毛布だと思ったのは生き物だったんです。

薄茶色の毛布のような布に、全身を包んだ芋虫のような得体の知れない生き物が、袖山君の上に覆いかぶさっていたんです。
「あ!」
僕は、思わず叫んでしまいました。
その途端、そいつの動きが止まったんです。

そして、そいつはゆっくりと僕のほうを見ました。
首から下は、毛布のような布切れでしっかりと隠し、全身像を見ることはできませんでした。
もちろん、見たいとも思いませんでしたが。
そいつは、何ともいえない恐ろしい形相をしていました。

女性の顔ともいえなくもないんですが、あれは間違いなく人間ではありません。
霊とかそういう存在とも思えず、ただただ不気味な化け物でした。
そいつは、口に手をくわえていました。
袖山君の右手を。

時間が止まってしまったような衝撃。
辺りには、何一つ音がしない無音の世界。
もし、今ここで針を落としたら、その音さえ聞こえそうなほどでした。

その無音の世界の中で、ちゅうちゅうと何かをすするような、しゃぶるような音が聞こえてきたじゃないですか。
そいつは、袖山君の腕をしゃぶっていました。
あの、どす黒いアザのところを、口をすぼめて、しゃぶっているんです。

そうしたら突然、そいつは口を大きく開きました。
まるで、人間の顔をひと飲みしてしまいそうなほど大きな口でした。
……僕は、逃げることができませんでした。
不思議と、逃げることさえ忘れてしまったのです。

恐怖のあまり動けなかったのと、未知のものに出会ってしまった衝撃とが複雑に入り交じり、僕は五感を奪われてしまったのです。
そいつは、大きな口を開けたまま、じーっと僕をにらんでいました。

逃げ出せなかった僕は、どういう行動をとったと思います?
1.叫ぶ
2.祈る
3.ツバを吐く
4.わからない