晦−つきこもり
>一話目(山崎哲夫)
>A5

いいぞっ!
いいぞ、葉子ちゃん!
それでこそ、自分の姪っ子だ!!
いやぁー、自分も死ぬまで登り続けるぞと、心に誓っているんだ。
驚いたな。
葉子ちゃんと、こんなに気が合うなんて、思ってもみなかったよ。

谷村君達が出会ったグループにもな、いたんだよ、五十歳ぐらいの人が。
というより、全員が五十ぐらいの人たちだったんだ。
しかも、女の人も混じっていたんだ。
谷村君は、驚いたよ。
すごい人たちもいるもんだなと思ったんだ。

だって、そうだろ? 葉子ちゃん。
五十ぐらいの人が登るのは、珍しくないけど、みんながみんな、その歳だっていうんだからな。
いったいどういうグループなんだろうと思ったんだ。
それにな、谷村君……ちょっと気になることがあってな。

今、追い抜いた人たち、なんとなくはじめに追い抜いた人たちだったような気がしたんだよ。
いや、はじめに追い抜いた人たちの顔を見たわけじゃないから、本当にそうなのか、わからなかったんだけどな。

なんとなく、そんな気がしたんだ。
でも、谷村君達は、一度も追い抜かれたことはなかったから、そんなことがあるはずがない。
でもな、もう一人いたんだよ。
今の人たちが、前に追い抜いた人たちに似ているなって、思った奴が。

そいつがみんなに聞いたんだ。
今の人たち、前に抜いた人たちに似ていなかったかって。
みんなは、気のせいだろって、答えたんだ。
まあ、ちょっとそんな気がしただけだったしな、そいつはそれで納得したんだ。

谷村君は、納得したわけじゃなかったんだが、あまり気にしないようにして登り続けたんだ。
………………………………。
それからどのくらいの時間、登り続けていたんだろう。
深い霧は、晴れるどころか、ますますひどくなっている気がする。

谷村君達は、憂鬱な気持ちで登りつづけていたんだ。
ふと前を見ると、また誰かが登っているのが見えた。
(おいおい! またかよ。
これで五回目だぞ!?)
谷村君は、小さく舌打ちをした。
そうなんだ。

あれから、もう四回は同じようなグループを追い抜いていたんだ。
谷村君は、気味が悪くってな。
確かめてみたいとも、思ったんだがな。
怖くて、その人たちの顔を見ることができなかったんだ。
さすがに仲間のみんなも、気になり始めていてな。

はじめは、みんな黙っていたんだけど、とうとう仲間の一人が、そのことを口にしたんだ。
俺達、ずっと同じ人たちを追い抜いていないかって。
一人がそういうと、みんな同じ事を思っていたもんだからな。
みんなそのことについて話し出したんだ。

「絶対に同じグループだよな」
「俺もさっきからそう思ってたんですよ……」
「やめてよ、気味が悪い」
谷村君が黙っていると、みんなが彼に聞いてきた。
谷村もそう思うだろ?
って。

「……気のせいだよ。こんな霧の中だろ? きっとみんな見間違えたのさ」
谷村君は、そう答えたんだ。
彼は、山岳部の部長だからな。
ここでまとめ役の自分までもが、不安がっていると、周りのみんなに不安が伝わってしまう。

だから、そう答えたのさ。
みんな納得したわけじゃないんだけどな。
まあ、実際、隣の奴の顔も見えないくらいの霧だったんだ。
見間違いだといわれれば、そうなのかもしれない。
みんなはそう思って、黙って先に進むことにしたんだ。

でも……。
また、いたんだよ、前を歩いている人たちが!
また、同じ様な人たちなのか!?
追いつかないようにしようと思ってもな、追いついてしまうんだよ。
谷村君達が、早足で登っていたから?
いや、違う!

普段と同じぐらい……、いや、かえって遅いくらいだ。
そのくらいのペースで登っていたんだ。
それなのに、追いついてしまうんだよ。
いくら霧のせいだといっても、前の人たちの歩く速さは遅すぎる。
谷村君達を待っているかのようにしか思えない!

ゆっくり、ゆっくりと登っている人たち。
谷村君達に、どんどんと近づいてくる!
みんなは、顔を見合わせるだけで、なにもしゃべれなかった。
近づくにつれて、だんだんとその人たちの姿がはっきりとしてくる。

その人たちも、数人の男女のグループみたいだった。
いくら気のせいだと思ってみてもな、その人たちが着ている服装が、前の人たちと同じようにしか見えないんだ。
もう、その人たちが前に抜いた人たちと同じ人たちだとしか、考えられなかった。

みんなの顔は、真っ青になっていたよ。
葉子ちゃんが、もしこのグループの一人だったとしたら、こんなときどうする?
1.無視して通り過ぎる
2.同じ人かどうか、確かめてみる
3.引き返す