晦−つきこもり
>二話目(藤村正美)
>M5

まあ、怖いですわね。
あなたって、なんでも悪い方へ考えるくせが、あるのじゃありません?
けれど、その方がいいのかもしれませんわね。
吉村先生も、そう思っていたら、あんなことにはならなかったでしょうに。

先生は、ハッと後ろを振り返りました。
気がつくと、足音がしなくなっていたんです。
暗い廊下が、何事もなかったように伸びています。
もしかして、足音は自分を追いかけたのではないのかも……。

今のうちに戻ろう。
先生は、そう思ったのでしょうね。
元来た道を、戻り始めたのです。
落ち着いてみれば、暗いとはいっても、ただの廊下です。
子供のように取り乱すなんて、冷静であるべき医者として、とても恥ずかしいことですわ。

誰も見ていないことにホッとしながら、先生は一般病棟まで来ました。
そのときですわ。
ぴしゃ……と背後で音がしたのです。
ぴしゃ……ぴしゃ……。
近づいてくる音は、さっきの足音と同じ物です。

先生はあわてて、近くのドアに飛び込みました。
そこは、使っていない病室でした。
きれいに整頓されたベッドが、二つ並んでいました。

窓には、壁と同じ色のカーテンが掛かって、一見、四方が壁に囲まれているように見えました。
この部屋に逃げ込んでも、危険が去ったわけではありませんわね。
まあ、悲観的な考え方をすれば、キリがないんですが。

葉子ちゃんは、悲観的な方かしら?
1.悲観的
2.楽観的
3.そのときどきで違う