晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>AB2

確かに、怖いよね。
でも、これから話すことは、恐怖のとき人が叫ぶ悲鳴がきっかけで、悪夢が始まったという話なんだ。

悲鳴といっても、ただの悲鳴じゃない、『最高の悲鳴』のテープを再生してしまったんだよ。
音響部門には、膨大な音に関するライブラリーが保存されているんだ。

もちろん、足音などはその場で音をだして収録するんだけど、スタジオ内で出せる音ばかりじゃあないからね。
その日も連続ドラマの音付けをしていたんだけど、その夜、スタジオに残っていたのは音響部門では北田裕、彼一人だったんだ。

彼は入社3年目でやっと、一通り仕事を覚えてきたことだった。
仕事を終えて帰ろうとしたときに、制作会社で2時間ドラマを作っている監督から、女優の悲鳴を何とか付けてくれと依頼があったんだ。

主演の女優って、その時に人気があったアイドル歌手で、演技は箸にも棒にも掛からなかったらしいんだ。
そのことで、監督もカンカンでさ。
その悲鳴の収録で、とうとう堪忍袋の緒がきれたらしいんだ。
台詞っていっても、悲鳴となるとアフレコでさ。

何度やってもダメで、その主演女優は別の仕事だって、帰っちゃったらしいんだよ。
それで北田君に、お鉢が回って来たってわけでさ。
役者が大根だっていって、ぶつぶついうのを聞きながらの作業だったらしいよ。

「ダメだ!」
「これもダメ!」
「ダメだ! ダメだ! ダメだ!」
監督はどのテープの悲鳴も気に入らなくて、とうとうテープ・ライブラリーが尽きてしまったらしいんだ。
そりゃあ、そうだよ。

なんの準備も無しにやってるんだ。
まあエキストラの悲鳴ならともかく、主演女優だよ!
鳥の鳴き声とは違うよ。
それで彼はどうしたと思う?
1.素直に謝った
2.自分で悲鳴を出した
3.もう一度探しに行った