晦−つきこもり
>四話目(山崎哲夫)
>A8

「やっぱり、哲夫おじさんと旅に出るのは嫌!」
「ええーっ! 何いってるんだ、葉子ちゃん。
さっきは『いいよ!』っていったじゃないか!」
……そ、それはそうなんだけど。

「人を期待させておいて、奈落の底に叩き落とすんだからなぁ……。はぁ、そうでなくっても、おじさんの神経は、とってもバリケードなんだからな」
バリケード……?
とっても頑丈な神経ね。
哲夫おじさんにピッタリだわ。

「……がっはっはっはっは。嫌だなぁ、みんな。ここは『それをいうならデリケートだろっ!』って、ツッコミを入れてくれなくちゃぁ……。とっておきの冗談だったんだぞ」
え!? 今のって冗談だったの?
てっきり、本気でいってるのかと思っちゃった。

「がっはっは! わかったよ、葉子ちゃん。そんな変な顔しなくったっていいって。早く話の続きが聞きたいんだろ」
そういって、哲夫おじさんはひとしきり笑ってから、また話を続けたわ。

自分は、火を起こして暖を取ることにしたんだ。
小屋の中央には、焚き火の跡が残ってたからな。
自分は、すぐに荷物を下ろすと、薪になりそうな物を探したよ。
幸い小屋には、かなりの量の薪が蓄えられてて、不自由はなかった。

火を起こすと、パァーッと周りが明るくなってな。
こう……、じわじわと暖かくなってくるんだ。
冷えきった身体には、多少ヒリヒリと痛むがな。
その痛みによって、また、『生きている』って実感が増すんだ。

まさに、生きかえる一瞬ってやつさ。
自分は、しばらくの間、ぼんやりと焚き火の炎を眺めてたよ。
するとな……。
焚き火の向こう側に、膝を抱えてうずくまってる男の姿が見えたんだ。
幽霊か……!?

一瞬そう思ったが、すぐにそうではないことに気付いた。
そいつには影があったんだ。
炎に照らされて、大きく伸びたそいつの影がユラユラと揺らめいてたんだよ。
他がどうかは知らないがな……。
自分は、幽霊には影がないと聞いていたからな。

『影があるからこいつは幽霊じゃない!』
そう判断したんだ。
それに、こんな風に山小屋で他の登山者に出会うのはそう珍しいことじゃない。
しかもこの雨だ。
自分と同じように雨宿りに来た登山者が、一人、二人いたってちっともおかしくないよな?

しかも、まだ登山に慣れていない初心者……。
火も起こさずにじっとしてるなんて、ベテランなら有り得ないだろ。
やがて、小屋の中が暖まってきたんだが……。
あいかわらず、その男は微動だにしないんだ。
眠っているのか……?

それとも……!?
ちょっと嫌な予感がするが、声をかけてみた方がいいんだろうか?
自分は、かなり迷ったんだがな。

葉子ちゃんなら、どうするんだい?
1.声をかける
2.そっとしておく
3.ジロジロ見る


◆3〜6番目「山で一番恐ろしいもの〜」の選択肢において「4.わからない」を選んでいる場合
3.ジロジロ見る