晦−つきこもり
>四話目(山崎哲夫)
>L7

「えっ? 嫌なのかい? まいったなぁ……。そんなに強くいわなくたっていいじゃないか……。おじさんの神経は、とってもバリケードなんだからな」
「それをいうなら、デリケートだろ」
あーあ、哲夫おじさんたら、良夫にまでツッコミ入れられちゃって……。

使い慣れない言葉を、無理して使おうとするからよ。
「がっはっはっはっは、良夫君は物知りだなぁ……」
哲夫おじさんは特に気にするでもなく、豪快に笑うと、また話を続けたわ。

自分は、火を起こして暖を取ることにしたんだ。
小屋の中央には、焚き火の跡が残ってたからな。
自分は、すぐに荷物を下ろすと、薪になりそうな物を探したよ。
幸い小屋には、かなりの量の薪が蓄えられてて、不自由はなかった。

火を起こすと、パァーッと周りが明るくなってな。
こう……、じわじわと暖かくなってくるんだ。
冷えきった身体には、多少ヒリヒリと痛むがな。
その痛みによって、また、『生きている』って実感が増すんだ。

まさに、生きかえる一瞬ってやつさ。
自分は、しばらくの間、ぼんやりと焚き火の炎を眺めてたよ。
するとな……。
焚き火の向こう側に、膝を抱えてうずくまってる男の姿が見えたんだ。
幽霊か……!?

一瞬そう思ったが、すぐにそうではないことに気付いた。
そいつには影があったんだ。
炎に照らされて、大きく伸びたそいつの影がユラユラと揺らめいてたんだよ。
他がどうかは知らないがな……。
自分は、幽霊には影がないと聞いていたからな。

『影があるからこいつは幽霊じゃない!』
そう判断したんだ。
それに、こんな風に山小屋で他の登山者に出会うのはそう珍しいことじゃない。
しかもこの雨だ。
自分と同じように雨宿りに来た登山者が、一人、二人いたってちっともおかしくないよな?

しかも、まだ登山に慣れていない初心者……。
火も起こさずにじっとしてるなんて、ベテランなら有り得ないだろ。
やがて、小屋の中が暖まってきたんだが……。
あいかわらず、その男は微動だにしないんだ。
眠っているのか……?

それとも……!?
ちょっと嫌な予感がするが、声をかけてみた方がいいんだろうか?
自分は、かなり迷ったんだがな。

葉子ちゃんなら、どうするんだい?
1.声をかける
2.そっとしておく
3.ジロジロ見る


◆3〜6番目「山で一番恐ろしいもの〜」の選択肢において「4.わからない」を選んでいる場合
3.ジロジロ見る