晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>B3

そうか、宇宙旅行に興味があるんだ。
でも宇宙は、見かけは美しいが、怖いところなんだよ。
いや、事故とかじゃあないよ。
ははっ、違うよ。
宇宙人の侵略とかじゃなくてさ。
まあ、これから話すことを聞けばわかるよ。

俺はその取材の中で不思議な話を聞いたんだ。
それはある国で、宇宙飛行士にインタビューしたときだった。
彼の話によるとこうだった。
あるとき、船外を何の気無しに見ていたそうだ。
作業を一通り終え、少しのんびりしていた。

窓からは美しい地球の姿が見えている。
そして、まもなく母国が見えてきた。
彼は懐かしそうに、母国を見つめる。
(あと、四十八時間で家族のもとに帰れる………)
そう思い、望郷の念が高まったときだ。

あたりが突然、真っ暗になった。
(地球の影に入るには早すぎないか………)
彼は不思議に思い、時計を見たそうだ。
しかし、地球の影に入る時間では無かった。
そしてもう一度、窓の外を見た。

(な、何だ………)
彼は目を疑った。
古い宇宙船が、幽霊船のように近づいてきたんだよ。
(どこの国の宇宙船だ………)
この軌道上には、他の宇宙船は無いはずだった。
その宇宙船はかなり傷んでいて、今は使われていないものだとすぐにわかった。

(廃棄された宇宙船か………、しかし、なぜあそこまでボロボロに………)
それは彼が今まで見たことがない型で、何か稚拙なもののように見える。
彼はぶつかる危険を心配していた。
その宇宙船はまっすぐ自分の方へ向かってくる。

「駄目だ………、このままではぶつかる!」
彼はつい言葉を出して、叫んだ。
しかしその宇宙船は、少し離れたところで、スーッと止まった。
(あの宇宙船、人が乗っているのか………)

まるで人が制御しているように止まったんだ。
(それにしても、あんなボロボロの宇宙船に人が乗っているなんて………)
彼は呆然として、その宇宙船を見つめた。
すると、宇宙船がうっすら光りだしたんだ。

(いったい、何の光なんだ………)
周囲は真っ暗で、他の光を反射しているとも思えない。
彼には何がなんだか、わからなかった。
漫然と時が流れる。
しかし、突然、淡い光のかたまりが三つ、スーッと近づいて来た。

そして窓の前まで来ると、だんだん人の形になりだしたんだ。
(何だ………)
そして、どこからともなく声が聞こえた。
『……、わけてくれないか………』
彼は自分の耳を疑った。
『空気、わけてくれないか………』

三つの声がそう口々にいったそうだ。
その声は彼の体に絡みつくように、周囲で響く。
彼に戦慄が走った。
「やめろ! やめてくれ!」
そして彼は誰とも無しに叫んだんだ。
しかし不気味な声は止まらなかった。

彼は叫ぶのをやめる。
するとあの声がはっきりとした言葉で聞こえた。

『空気をわけてくれ』
そして彼はその声に答えたんだ。
1.やるから、どっかいけ!
2.空気は一人分しかないんだ!
3.空気がなければ俺は死んでしまう!