晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>N4

ははっ、そういう考えもあるよな。
でも心臓麻痺やなんかで、みんな死んでいたんだよ。
ちょっと殺し屋の手口としてはね。
それに路上で心臓麻痺で殺す必要ないしな。

まあ心臓麻痺といっても、必ずしもそうともいえない症状らしいけどね。
俺達もいろいろ考えたんだけどさ。
結局、結論はでなかった。
しかし、それから間もなく新たな事件が起きたんだよ。
また人が死んだんだ。

それも今までとは違って、まるで至近距離から大型のピストルで撃たれたように、頭が吹き飛んで死んだんだよ。
はじめは別の事件だと思っていたんだけどさ。
同じ様な事件が連続して起きたんだよ。

それでこれは今までの事件が、エスカレートしたものじゃないかと思い始めたんだ。
取材班は現地に向かった。
そして、一番事件が集中していた場所に張り込んだんだよ。
そこは地方都市の小さな駅の広場だ。
その日はかなり人出が多く、選挙演説なんかもやっていた。

「真田さん、事件が起きますかね」
長岡さんは不安そうに俺に訴える。
「あの政治家、そうとう悪いことしているらしいですよ」
俺は選挙演説している政治家の方を見た。

「ここで張ってれば、正義の味方が退治に来ますよ、ははっ」
そんな冗談をいって、自分の気も紛らした。
「しかしあれだけの事件が起きているのに、みんな平然と暮らしているのは不思議ですよね」
長岡さんは、時間を潰そうとでもするように、そんな会話を始めたんだ。

確かにそうだった。
どう見ても平凡な日常そのものだったんだ。
主婦が子供をつれて買い物に来ている姿が、あちこちに見えた。

「それに、今まで我々マスコミも、ここでの事件にほとんど興味を示さなかったのは、どうしてでしょう」
それは俺も気になっていた。
死亡した人物の中には、かなりの著名人もいる。
しかし、ニュースにすらならないケースがほとんどだった。

俺達はお互いの疑問をぶつけ合ったんだ。
そして、そんな話も終わりかけた時だ。
突然、駅前の人々がざわめきだした。
「真田さん、あれ………」
長岡さんが駅の方を指さして、そう呟く。

そこにはあの演説中の政治家が、頭を真っ赤に染め、倒れていたんだ。
俺はあまりにもタイミングがいいんで当惑した。
資料によると、年々増えていたとはいえ、去年は30件だ。
それから考えると十日につき、一件、あまりにもタイミングが良すぎた。

俺達は駅前に向かう。
そこには何人かが周囲を囲んでいたが、野次馬があつまるようなことは無かった。
(いったい、どういう神経しているんだ………)
周囲の主婦達は、一時的にざわめいたが、また平然と歩きだしている。
(子供か………)

俺は子供がジッと、こっちを見ていることに気付いた。
小学生の様だ。
(この街では野次馬が小学生一人か………)
そして程なくパトカーが到着し、事件は処理された。
俺達は警察を取材しようとしたが、それは空振りに終わった。

警察はその事件に驚くふうでもなく、事務的に処理している感じだ。
何か、奇妙な街だった。
そして次の日も、その次の日も、俺達は同じ様な事件を目撃することになったんだ。

乱暴な運転をしていたトラックが、突然、火を噴いたり、疑惑のある役人が不自然な方法で自殺したりね。
俺達は段々とんでもないことに、首をつっこんだんじゃないかと考え出していた。
まるで俺達に見せるような感じで次々に起こる殺人。

「いったいどうやって、殺されているんですか」
長岡さんは何日かして、そう嘆きだした。
「警察に聞いても、原因不明意外は何も語らない………、いったい、どういうことですかね」
しかし俺は何て答えたらいいのか、わからなかった。

そして俺達は、今までのビデオを調べることにしたんだ。
ホテルの一室にスタッフが集まり、次々と今までのビデオを見ていった。
ビデオは幾度となく、スロー、ポーズが繰り返されたが何もわからなかったんだ。

「泰明さん、この子、さっきの現場にもいましたよ!」
スタッフの一人が何本かのビデオを見ているとき、興奮してそう叫んだ。
それは俺がはじめの事件の日に見た、あの野次馬の少年だった。

「真田さん、この少年が何か、知っているんじゃないですか」
長岡さんは一筋の光明を、その少年に求めてそういった。
「とにかく明日から少し迫って見ませんか」
スタッフの一人も、そう同調する。
俺は少し嫌な感じがしたが、特に反対しなかった。

「じゃあ、明日は手分けして、情報収集しましょう」
すると長岡さんは、そう主張したんだ。
俺は黙って頷くと、長岡さんに任せることにした。
そして次の日、スタッフは各々の調査を始めたんだ。

「じゃあ、長岡さん、俺はちょっと局に戻ります。明日には、また来ますから」
俺はそういって局に戻った。
久しぶりに俺は、落ち着いた気分になることができた。
そして俺は次の日の夕方に、その街に戻ったんだ。
ホテルには誰もいなかった。

(みんな、まだ戻ってきていないようだな………)
俺はそう思い、みんなを待つことにしたんだ。
しかし夜になっても、誰も戻ってこなかった。
ホテルの従業員に聞くと、前の日も三、四人のスタッフが戻ってこないって騒ぎになったそうだ。

葉子ちゃん、みんなはどうしたと思う。
1.あの子に殺られたんじゃあ
2.あの子を取材しているんじゃあ
3.怖くて逃げ出したんじゃあ