晦−つきこもり
>七話目(山崎哲夫)
>A2

お開きにしようっと。
なんだか疲れちゃった。
みんなも、怖い話はもう充分って顔してるし……。
「それじゃあ、夜も遅くなっちゃったし。もう終わりにして寝ましょうか」
すると、その言葉を待ってましたとばかりに、哲夫おじさんが豪快に笑い出したの。

「がっはっは! 葉子ちゃん、やっぱり眠かったんだな」
「子供の寝る時間は、とっくに過ぎちゃってるもんね」
……もう、哲夫おじさんも由香里姉さんも、すぐ私のことを子供扱いするんだから。
でも、半分くらいは当たってるから反論できないわ。

「なんだ、もう寝るのかよ」
一人だけ、ふくれっ面してるのは良夫ね。
「チェッ! つまんねぇの! 俺なんか、ちっとも眠くないのにさっ」
何いってるのよ。
さっきからアクビばっかりしてるのは、良夫の方じゃない!

「私も、あんまり眠くはないんだけどなぁ……」
「あら、私は葉子ちゃんの意見に賛成ですわ。睡眠不足は美容の大敵ですもの。すぐにお肌に出るんですから。一日十時間の睡眠が理想なんですって……」
さすが、正美おばさんね。

看護婦で、しかもこんなに美人な正美おばさんがいうと、とっても説得力のあるセリフだわ。
……けっきょく、
「あらやだ! じゃあ、もう寝なきゃ! ほら、あんたたちもさっさと寝なさいよ!」
っていう、和子おばさんの一言で、会はお開きになったの。

……やっぱり、この家で一番の実力者は、和子おばさんだったのね。
みんな、それぞれの泊まる部屋に戻っていく……。
最後に開かずの間を出たのは、私と泰明さんだったわ。

部屋を出る時、泰明さんは、
「やっぱり迷信だったんだな。七回忌の晩に怖い話をすると、死者が蘇るっていうのは……、ははっ」
……って、誰にいうともなしに呟いてたわ。
そういえば、そんなこといってたっけ……。
でも、別にいいの。

何も起こらなくてよかったっていうのが私の本音だったから……。
あんなに眠くってしょうがなかったのに……。
いざ、布団に入ると、なかなか眠れないの。
今日一日、いろんなことがあり過ぎて興奮してるのかしら?

でも、正美おばさんのいったとおり、寝不足は美容にも悪いし、第一、朝寝坊なんかしたら泰明さんに笑われちゃうもの。
早く寝なきゃ……!
何か、いい方法あったかしら……。
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