晦−つきこもり
>七話目(山崎哲夫)
>K2

怖い話を話そう。
みんなは黙って私を見てるけど、その視線には明らかに期待が込められてる。
……そんな気がするの。
実をいうと……。
みんなの話を聞きながら、私、とっておきの話を思い出してたんだ。

良夫の話なんて目じゃないくらい怖いやつ。
よーし!
みんなを、うーんと怖がらせちゃえ。
「じゃあ、最後に私の話を聞いて下さい……」
……って、私がいいかけた時!

「ええーーーっ!? まだ続けんのかよ、俺、もういいよ!」
良夫が不満そうな声を上げたの。
ムッ! なんて奴!
人がせっかく決心して、話をしようといってるのに!

「そうですわね、怖い話はもう充分聞かせていただきましたわ」
……ええっ!?
みんなも、もう終わりにしようっていうの?

「おっと、明日は早起きしてこの先の山に登るんだった。それじゃ、自分はこれで」
そういって哲夫おじさんは、さっさと部屋を出ていってしまった。
……もう、勝手なんだから。

「じゃ、私ももう寝るわ」
「葉子ちゃん、あなたも早く休んだ方が……。睡眠不足は美容の大敵ですもの」
「あらやだ、そうだったわ。早く寝なきゃ。ほら、良夫! あんたも早く寝なさいよ」
……あーあ。
せっかくのとっておきの話だったのになぁ。

でも、みんなを呼び戻すわけにもいかないし……。
それに……。
なんだか私も眠くなっちゃった。
泰明さんがいるから必死で我慢してるけど、アクビが出そう……。
いいや、話はまた今度の機会で…………。

部屋を出る時、泰明さんは、
「やっぱり迷信だったんだな。七回忌の晩に怖い話をすると、死者が蘇るっていうのは……、ははっ」
……って、誰にいうともなしに呟いてたわ。
そういえば、そんなこといってたっけ……。
でも、別にいいの。

何も起こらなくてよかったっていうのが私の本音だったから……。
あんなに眠くってしょうがなかったのに……。
いざ、布団に入ると、なかなか眠れないの。
今日一日、いろんなことがあり過ぎて興奮してるのかしら?

でも、正美おばさんのいったとおり、寝不足は美容にも悪いし、第一、朝寝坊なんかしたら泰明さんに笑われちゃうもの。
早く寝なきゃ……!
何か、いい方法あったかしら……。
1.目を閉じる
2.ヒツジを数える
3.英語の教科書を開く