学校であった怖い話
>七話目(荒井昭二)
>N15

19××年、八月九日。
今日、昭二が死んだ。
まだ十七才だった。
昭二は何も悪くない。
脳溢血だった。
なぜ、死神は昭二を選んだのか。
神を呪う。

八月二十四日。
昭二のことが忘れられない。
目を閉じれば、自然と昭二の笑顔が浮かび、笑い声が耳に入ってくる。
昭二が忘れられない。
昭二が生き返るならば、私はどんなことでもしよう。

十月七日。
日がたつたびに、昭二の思い出は私の中で広がっていく。
ついに、私はさる高名な人形師に昭二の人形を作ってもらうことにした。
この人形が昭二の代わりになってくれれば、少しは私の気持ちも晴れるだろう。

十一月十四日。
人形ができてきたが、昭二には似ても似つかない。
作り直してもらうことにした。

十一月三十日。
新しい人形ができてきたが、今度も気に入らない。
これは昭二ではない。
ただの人形だ。
私は、昭二の代わりとなる人形がほしいのだ。

十二月十八日。
何人もの人形師に頼み、あらゆる人形を作ってもらったが、どれも気に入らない。
私が望むのは、完璧な人形なのだ。

二月三日。
出来損ないの人形ばかり、増えていく。
どれもこれも昭二ではない。
私の昭二。
私の生きがいは昭二なのだ。
昭二が生き返れば、私は、何もいらない。
私の命も捧げよう。

二月五日。
私は、悪魔に魂を売ることにした。
悪魔との契約に成功したのだ。
これから毎年、一人ずつ子供の魂を捧げれば、十三年後、人形に昭二の魂が宿り、蘇ることができる。

私は、それで満足だ。
これから、毎年一人ずつ生けにえを……。
そこまで日記を読み進めたとき、僕は、ページの間から小さな鍵を見つけた。

何の鍵だろう?
しかし、こんなところに挟んでいるとは、とても大事な鍵に違いない。
僕は、その鍵をそっとポケットに忍び込ませた。
その時。

閉めたはずの扉がゆっくりと開いていった。
「……ようこそ」
扉の向こうには、あのポートレートの男が立っていた。
校長先生だ。
手には、ゴルフ・クラブが握られていた。

「……校長先生」
僕は、思わず呟いた。
「お前が最後の生けにえだな?
もしかしたら、そろそろ来るかもしれないと思っていたよ。生けにえになった連中の何人かは、死ぬ間際にこの校長室に忍び込む。だから、私は待つことにしたんだ。そしてお前も、同じだった。ひひ……」

校長は、自分の息子を生き返らせるために、毎年、悪魔に生けにえを差し出していたのか。
僕は、傍らにたたずむ人形をちらと見た。
荒井は、生けにえは今年で最後だといっていた。

では、僕が死ねば、この人形が荒井昭二として生き返るのか。
冗談じゃない。
僕は僕だ。
死んでたまるか!

「なぁに、何も怖くない。怖いことは何もないんだ。お前が死んでも、すぐに生まれ変われるのだから。
昭二のために、死んでおくれ!」
校長は、手にしたゴルフ・クラブをめったやたらに振り回しながら僕に向かって突進してきた。

どうする?
どこに逃げればいい!?
1.傘立て
2.棚
3.机の下
4.洋服ダンス
5.校長室の外