イーハトーヴォ物語
イーハトーヴォ 第一章 貝の火 第二章 カイロ団長 第三章 虔十公園林 第四章 土神と狐 第五章 グスコーブドリの伝記 第六章 オツベルと象 第七章 セロ弾きのゴーシュ 第八章 雪渡り 最終章 銀河鉄道の夜
第一章 貝の火
第二章 カイロ団長
第三章 虔十公園林
第四章 土神と狐
第五章 グスコーブドリの伝記
第六章 オツベルと象
第七章 セロ弾きのゴーシュ
第八章 雪渡り
最終章 銀河鉄道の夜
登場人物 7冊の手帳 アイテム 情報

【第四章 土神と狐】
●イーハトーヴォ市街地

男
「きょうはすこしすずしいね。

男
「きょうはなんとなく、はだざむいね。

女
「イーハトーヴォ、
ここはしずかなやすらぎの街・・・

少年
「わるいことをすると、
土神にたべられちゃうんだよ。

男
「うん、きょうはさわやかな日だ。

男
「チャプリンのえいが、みたかい?
うん、とてもおもしろかったよ。
金をかりてでも、みにいくべきだね。

少女
「土神の森の、
話をする樺の木ってしってる?
わたしも、みてみたいな。

少年
「いっしょにあそぼうよ。

犬
「ワンワン、
いっしょにはしりましょう。

●イーハトーヴォ駅前

シグナル
シグナル
「シグナレスさん・・・

シグナル
シグナレス
「わたしなんかを、
シグナルさんが
すきになってくれるわけがないわ。

●イーハトーヴォ市街地

男
「土神はもともと
農民たちの神だったが、
いまではすっかり
わすれられているようだ。

詩人
「イーハトーヴォの夏は、
ほんとうにみじかいね。
ことしの夏はもうおわりなのかな?

女
「ことしは、イジョウキショウなのよ。

少年
「ボクのかあさんは、
けっこうカガクにくわしいんだ。

女
「さいきん、どうしてこんなに
すずしいのかしら?

男
「クーボー博士が学校で、
ジシンについてのコウギを
おこなっているそうです。

女
「クーボー博士は、
ゆうめいな学者さんなんですよ。

女
「土神の森にすむキツネは、
とても博学なんだそうです。
なんでも、たくさんの本と
ケンキュウしつをもっているとか。

女
「うちのしゅじんは、
おまんじゅうがたべたくなると、
がまんができないのよ。

男
「ああ、まんじゅうがたべたい。
こんなときは・・・・・
まんじゅうをつくろう!

男
「かつどうしゃしんかんが、
オープンしたよ。

犬
「このセカイにはそんざいしない
だれもしらないばしょに、
銀河鉄道というフシギなのりものが
ていしゃする駅があるそうです。

●ケンジントンホテル

ホテル支配人
ホテルしはいにん
「ケンジントンホテルには、
いままでたくさんのユウメイな方々が、
ごしゅくはくになられました。
ウー、エッヘン!

男
「この街にいても
あまりもうからないので、
もうすぐここをひきはらいます。
おせわになりました。

女
「土神の森の樺の木は、
人間と話ができるそうですね。

●イーハトーヴォ市役所

レオーノキュースト
レオーノキュースト
「ほう、虔十のスギは、
ちいさくてかわいいんんですか。
それでは私もいちど、
みにいくとしましょう。

●イーハトーヴォ農学校

クーボー博士
クーボー博士
「・・であるから、
じしんはおきるのである。

生徒
「なるほど。

生徒
「うーむ。

生徒
「じしんはこわいよ。

生徒
「じゅぎょうちゅうは、
しずかにしてください。

●らすちじん協会

ファゼーロ
ファゼーロ
「賢治先生からは、
まだなんのれんらくもありません。

作男
「また手帳がみつかっただか。
よかったよかった。

作男
「賢治先生・・・

●活動写真館

モギリ
「きょうはチャプリンえいがを、
じょうえいしてるよ。

観客
「これをみるために、
とおくからきたんだ。

観客
「やっぱり、きげきはサイコウだ!

観客
「えいがはタイシュウのための
エンターテイメントだ!

観客
「メロドラマがみたいわ。

観客
「ワハハハハハハ。

観客
「ぐう・・・ぐう・・・

観客
「えいがって、
ほんとうにすばらしいですわね。

劇場支配人
げきじょうしはいにん
「チャプリンえいがは
きゃくのいりがいいね。

マネージャー
マネージャー
「ここはイーハトーヴォで、
ただひとつのえいが館でございますよ。

●猫の事務所

かまネコ
かまネコ
「あたらしいじょうほうですニャ。
7つの手帳のうち1つを、
土神の森にすんでいるキツネが
もっているようですニャ。
土神の森は、
虔十の村の北にありますニャ。

私
私は土神の森へむかうことにした。


●土神の森

樺の木
樺の木
「こんにちは、私は樺の木です。

樺の木
樺の木
「キツネさんがくるのを、
まっているんです。

キツネ
キツネ 「こんにちは。
ところであなた、
ここは私のすまいですが、
私になにかごようですか?

キツネ
キツネ
「ほう、イーハトーヴォ市街から
おみえになったんですか。
ここはごらんのとおり
森とヌマしかないイナカですよ。

キツネ
キツネ
「賢治さん?詩人の賢治さんですか?
しってますとも。
かれと私は、もう長いつきあいでね。
いまどこにいるかって?
さあ・・・どこでしょう?

キツネ
キツネ
「おっと、そろそろじかんだ。
それではしつれい。

キツネ
キツネ
「・・・・・

私
このあたりには、
かもがやしかはえていない。
こんなところでキツネは、
いったいなにをしているのだろう?

土神
土神
「だれだ!おまえは。
なんのことわりもなく、
わしのほこらにはいってくるとは!

私
土神になぐられ、私はきをうしなった。
きがつくとよるだった。
私は森のまんなかに
ほうりだされていた。

キツネ
キツネ
「・・・・・

樺の木
樺の木
「こんばんは。いっしょに、
キツネさんのお話をききませんか?

キツネ
キツネ
「じつにしずかなよるですねえ。
いま、樺の木さんと星について、
かたりあっていたところですよ。
あなたもどうです、ごいっしょに。

私
キツネは博学だった。
星のこと、
ぼうえんきょうのこと、
げいじゅつのこと、
キツネはさまざまなことがらを
おもしろおかしく話すことができた。

キツネ
キツネ
「私がドイツにちゅうもんした
ぼうえんきょうがとどいたら、
みんなで星をみましょう。

樺の木
樺の木
「キツネさんは、
ほかにもいろいろなものを
もってらっしゃるんですよ。
ガイコクの本とか、
めずらしいキカイなんかも
あるんですって。
キツネさん、
こんど、なにかおもしろいもの、
もってきてくださいね。

キツネ
キツネ
「ええ、よろこんで。
こんど、じまんのコレクションを
お目にかけましょう。
・・・・・・・
ああ、こんなじかんだ。
そろそろ、へやにもどらなきゃ。
そういうわけで、
お先にしつれいします。

樺の木
樺の木
「キツネさんって、
なんでもしっているんですよ。
星のきれいなよるは、
いつもいろんな話を
してくれるんです。

樺の木
樺の木
「キツネさん、
どんな本をかしてくれるのかしら。
とてもたのしみだわ。

キツネ
キツネ
「いま、いそがしいんです・・・
あしたにしていただけますか。

土神
土神
「・・・木やクサというものは、
黒い土からでるのに、
なぜこうもあおいもんだろう。
キノコは
タネもなしに土からはえてくる。
そんなふうに、
どうもすべてがわからんことばかりだ。
じつにふしぎだ・・・
そうはおもわんか、なあ樺の木さん。
・・・むっ、きさまはことわりもなく
オレのほこらにはいってきた、
ふとどき者ではないか。

樺の木
樺の木
「土神さん、
この人はわるい人ではありません。

土神
土神
「しかし、こいつは・・

樺の木
樺の木
「キツネさんに、
きいてみてください。
この方がわるい人かどうか・・・

土神
土神
「キツネだと?
あのうそつきか!

樺の木
樺の木
「土神さん・・

土神
土神
「なんと、キツネのごときを!
ただひとこともほんとうのコトはなく、
ひきょうでおくびょうなヤツでは
ないか。
ええい、動物のぶんざいで!

樺の木
樺の木
「ああ・・・
土神さんをおこらせてしまった。

樺の木
樺の木
「土神さんは、
おこるとこわいのです。

土神
土神
「おまえ、どうやらほんとうに
わるい人間じゃなさそうだな。
・・・・・・・・・・・・・
もう、おまえをなぐったりはせんよ。
ほんとうだ。オレはウソはつかぬ。

土神
土神
「・・樺の木は、
オレよりキツネのほうが
りっぱだとおもっているようだ。
たしかにオレは、
なにもしらぬし、
なにももってはいない。
それはわかっているが、
そのことをかんがえると、
なんともやりきれぬキモチになるのだ。
オレはいやしい神だが、やはり神だ。
土神であるこのオレが、
樺の木にたいしてこのようなキモチに
なるとは・・・
このきもちはなんなのだろう?

私
よるもふけたので、
私はイーハトーヴォ市街地に
もどることにした。


●ケンジントンホテル

私
そしてつぎの日・・・
−土神のすきな物はなんだろう?−
私はげんきをなくした
土神をはげますために、
街でじょうほうを集めることにした。

●イーハトーヴォ市役所

レオーノキュースト
レオーノキュースト
「ホテルのうらの家にすむふうふが、
つくりすぎたおまんじゅうを、
おすそわけしているそうです。

●猫の事務所

かまネコ
かまネコ
「土神のすきニャそなえものは、
まんじゅうですニャ。

●らすちじん協会

ファゼーロ
ファゼーロ
「おそなえものをもっていけば、
土神もげんきになるでしょう。

作男
「土神さんのこうぶつは
まんじゅうだよ。

作男
「土神さんは
わるい神さまじゃあないだが、
おこらすとこわいだ。

●イーハトーヴォ市街地

女
「おまんじゅうを、 つくりすぎちゃって・・・
とてもたべきれないわ。

男
「わが家とくせい、
手づくりのまんじゅうだ。
もっていくかい?」

私
もらいますか?
→はい
<まんじゅうを手にいれた>

男
「ウップ、まんじゅうをたべすぎて、
おなかがいっぱいだ。

→いいえ
男
「そうかい?
こんなにおいしいのに・・・

女
「ああ、
まんじゅうづくりはカタがこるわ。


●土神の森

樺の木
樺の木
「こんにちは。
きょうもよいてんきですね。

土神
土神
「おまえか・・・

土神
土神
「なに?
それをオレにくれるというのか?

私
<私はまんじゅうを手わたした>

土神
土神
「おお、ひさしぶりの
まんじゅうだ。
オレはこれがだいすきでな。
このおそなえをもらうと、
きぶんがよくなるのだ。
どら、ちょっと樺の木にでも
会いにいくか。

私
土神はすこしげんきになったようだ。

土神
土神
「・・・・・・

私
私は樺の木とキツネの話を
きくことにした。

キツネ
キツネ
「・・・ほんとうの美とは、
すっかりできてしまった
モノじゃないんです。
シンメトリーのほうそくに
かなうといったって、
少しばかりシンメトリーを
もっているというぐらいが
ちょうどよいのです。

樺の木
樺の木
「ええ、ほんとうにそうおもいますわ。

キツネ
キツネ
「どの美学の本にも、
これくらいのことはかいてあります。

樺の木
樺の木
「美学の本はたくさんおもちですの?

キツネ
キツネ
「・・・ええ、もってますよ。
イギリスとドイツのなら、
たいていはあります。
イタリアのはもうすぐとりよせます。

樺の木
樺の木
「ドイツのぼうえんきょうは、
まだこないんですの?

キツネ
キツネ
「ええ、まだこないんです。
ドイツのぼうえんきょうは
ひょうばんがよくて、
なかなか手にはいらないんです。
なに、きたらスグにもってきて
お目にかけますよ。
土星なんて、
それは美しいんですからね。

キツネ
キツネ
「ああ、こんなじかんだ。
・・・それでは、
ちょっとしらべものがあるので、
私はしつれいします。
あとで、美学の本をもってきましょう。
それと、たびのかた・・・
のちほどアナタに、
わたしたい物があります。
では・・・

樺の木
樺の木
「キツネさんは、
いつもいろんなことを
けんきゅうしてらっしゃるんです。

土神
土神
「オレよりキツネのほうがえらいのか?
オレはキツネよりおとるのか?
美学だと?
オレにはそんなことわからぬ!
いったい、
オレはどうすればよいのだ?

土神
土神
「うおおーーーっ・・・
こうなったら・・・
キツネを、ころすしかない!

私
土神はそうほえると、
そとへとびだしていった。

私
どうしても土神やキツネのことが
きがかりな私は、
森へもどることにした。

樺の木
樺の木
「いまここで、
キツネさんとはなしていたら、
土神さんがやってきたんです。
そしておおごえでさけびながら、
キツネさんをおいかけはじめたんです。
いったいなにがあったんでしょう?

樺の木
樺の木
「キツネさんは、
わたしに美学の本を
もってきてくれたんです。
どうかキツネさんを、
たすけてあげてください。

私
おそかった。
キツネはすでにこときれていた。

私
キツネは、手にかもがやのほを
にぎりしめたまましんでいる。

私
へやのなかは、がらんとしていた。
本さえもなかった。
キツネは、
私たちにウソをついていたのだ。

土神
土神
「うおーん・・・
な、なんてことだ!
オレは、オレは、
いったい、なんのために・・・

私
テーブルのうえにかもがやがある。
かもがやのしたには、
なにかかくされているようだ。

私
かもがやのしたには、
手帳がかくされていた。
それは、賢治さんの手帳だった。
<ノートじるし手帳を手にいれた>

私
私はもういちど、
テーブルのうえをしらべてみた。
しかしかもがやのほかには、
なにもなかった。

樺の木
樺の木
「さっきキツネさんにかりた本が、
かもがやのほに
なってしまったんです・・・
キツネさんはだいじょうぶですか?

私
キツネはウソをついて
じぶんをよくみせようとしていた。
そのウソゆえに、
土神にころされてしまうとは、
おもいもよらずに・・・
ウソをつくのは、
なにもキツネだけではない。
そしてウソをつく者はいつも、
じぶんのウソにくるしむものだ。
ぼうぜんとたちつくしている
樺の木をのこして、
私は土神の森をあとにした。