イーハトーヴォ物語
イーハトーヴォ 第一章 貝の火 第二章 カイロ団長 第三章 虔十公園林 第四章 土神と狐 第五章 グスコーブドリの伝記 第六章 オツベルと象 第七章 セロ弾きのゴーシュ 第八章 雪渡り 最終章 銀河鉄道の夜
第一章 貝の火
第二章 カイロ団長
第三章 虔十公園林
第四章 土神と狐
第五章 グスコーブドリの伝記
第六章 オツベルと象
第七章 セロ弾きのゴーシュ
第八章 雪渡り
最終章 銀河鉄道の夜
登場人物 7冊の手帳 アイテム 情報

【第八章 雪渡り】
●イーハトーヴォ市街地

男
「そろそろかぜが、
つめたくなってきたね。

女
「イーハトーヴォの冬は、
とてもさむいんです。

少年
「冬は、さむいからキライだよ。

男
「ゆきわたりの村には、
いまごろまっしろなゆきが
ふりつもっているんだろうね。

少女
「キツネ村ってしってる?
キツネさんが、
たくさんすんでる村なんだって。

●イーハトーヴォ駅前

シグナル
シグナル
「シグナレスさん、
ぼくの話をきいてください。

シグナル
シグナレス
「・・・・・

●イーハトーヴォ市街地

男
「ゴーシュのゆくえは、
だれもしらないそうだ。

男
「ぼくかい?ぼくはいつも
かつどうしゃしん館とじぶんの家を、
いったりきたりしているおとこだよ。
「ウチにいそうろうしている
かまネコが、びょうきでじむしょを
むだんけっきんしてしまったんだ。
いまごろきっと、
みんなにいじめられているだろうな。

女
「冬のあいだは、
あたたかいところですごすのが、
いちばんよ。

少年
「春になるまでこの街を
はなれてくらすんだ。
げんきでね。

女
「ほんかくてきな冬のおとずれですね。
ああ、さむいわ。

男
「ネコのじむしょは、
なにやらゴタゴタしているらしいね。

女
「このきせつになると、
冬のイーハトーヴォをさけて、
あたたかい地方へいく人たちが
たくさんいます。

男
「さむいけれど、
私はイーハトーヴォの冬がすきです。

女
「イーハトーヴォ農学校に、
クーボー博士が
もどってきたんですよ。

男
「さむい?
ハーッ!・・・・・
ほら、へやのなかでもイキが白い!

女
「さむくなりましたね。
こんなときは、イナカにいって
ゆきげしきをみるのも、
いいかもしれません。

女
「かまどに火をつけて、
へやをあたためてるのよ。
そとにたってると、
もう、さむくて、さむくて・・・

男
「ああ、さむい、さむい。
こんな日は、アツアツの
ふかしマンジュウがたべたいね。

男
「ああ、ことしも冬がやってきた。

少女
「ゆきわたりの村は、
街よりずっとさむいのよ。
ゆきがたくさんなのよ。

犬
「このごろさむくなってきましたね。
わたしもそろそろ、南のくにへ
かえろうかとおもっているんですよ。
「さいきん、よくおもうんですよ。
・・・私のしゅじんはいまごろ、
なにをしているんだろう・・ってね。

●ケンジントンホテル

ホテル支配人
ホテルしはいにん
「このキセツは、
おきゃくさんが少ないので
ございます・・・

女
「私、そろそろここを
ひきあげようかとおもいます。
イーハトーヴォの冬は、
きびしいですからね。

女
「イーハトーヴォの冬は、
とても美しいそうです。
ただ、がいしゅつするには、
チョットさむいとおもいませんか?
→はい
「おでかけは、春までガマンですね。
→いいえ
「わたしって、さむがりかしら?

●イーハトーヴォ市役所

レオーノキュースト
レオーノキュースト
「ゆきわたりの村のちかくに、
キツネのすむ村があるそうです。
いったコトのある者は、
ほとんどいないそうですが・・・

●カイロ団長の店

カイロ団長
カイロ団長
「そろそろ、とうみんのきせつです。
私もさいきんは・・・・・
いねむりすることが・・おおくて・・
ふあー・・・・・

カエル
「さむくなると、ねむくなるよ。

カエル
「酒でものんで、あったまろう。

カエル
「オレらカエルは、ゆきがきらいさ。

●猫の事務所

かまネコ
かまネコ
「じむしょのみんニャが、
くちをきいてくれニャいんです。

かまネコ
かまネコ
「やすんでいるあいだに、
私にかんするわるいウワサを
だれかがニャがしたんですニャ。
それもぜんぶひどいウソばっかりで・・
でも、かまねこニャかまの
めいよのためにも、
ボクはがんばりますニャ。

●らすちじん協会

ファゼーロ
ファゼーロ
「きょうみたいにさむい日には、
賢治さんにつれていってもらった、
ゆきわたりの村をおもいだします。

作男
「また手帳がみつかった?
そりゃすごいだ。
とうとうあと1さつで、
7さつぜんぶそろうだな。
がんばってくれな。
ところでクーボー博士が、
この街にかえってきたそうだ。
きっとなにかじょうほうを、
もってるはずだ。
あんたも、いってみるといいだ。

作男
「ゆきわたりの村へいきたい?
ゆきわたりも村への道をしるものは
すくないだ。
ん?オラもしらねえよ。

ファゼーロ
ファゼーロ
「ゆきわたりの村へは、
かなりの道のりがあるはずです。
はっきりしたことは
おおしえできませんが・・・

●イーハトーヴォ農学校

生徒
「先生は、けんきゅうしつです。

生徒
「クーボー先生が、
やっとかえってきました。

生徒
「もうすぐ冬休みだ!
うれしいな、うれしいな。

生徒
「この学校は、休みがおおすぎます。
ああ、もっとべんきょうしたいなあ。

クーボー博士
クーボー博士
「やあキミか、そのごげんきかね。
火山局のほうが
やっとおちついたので、
私もこっちにもどってきたんだ。

クーボー博士
クーボー博士
「ところでキミ、
銀河鉄道というのりものを
しっているか?
なに、きいたことはある?
そうか、そうか。

クーボー博士
クーボー博士
「ここのところ、少々ヒマでな。
そこで、ここイーハトーヴォでは
ひとつの民話としてかたられている、
銀河鉄道をけんきゅうのテーマに
しようかとおもっているのだ。
どうだ?おもしろそうだろう。
なに?いちどでいいから、
銀河鉄道でたびをしたい?
そうか、そうか。
それでこそワシもけんきゅうの
しがいがあるというものだ。
キミさえよければ、
またあそびにきたまえ。
そのうちに、けんきゅうのセイカを
きかせることができるとおもうぞ。

●イーハトーヴォ市街地

詩人
「あるいはくらくまたあかく
ふりくるゆきをおりなすは
さはとおからぬくもかげの
日をこしいくにほかならず・・・
・・・北のやまおくには、
ゆきわたりの村がある。
それはゆきげしきが
キレイなところなんだ。
きみもいちどいってみるといいよ。
街をでて北にむかい、
山をひとつこえたところにあるはずだ。

私
私はゆきわたりの村を
おとずれることにした。


●雪渡りの村

せいさく
せいさく
「オレは、せいさく。
あー、それそれ、
ほいのほいと。
さむい日は酒をのむにかぎるよ。

せいさく
せいさく
「おっ、ここに
うまそうなマンジュウがおちてるぞ!
おまえもくうか?
→はい
私
すすめられるがままに、
私はちゃいろのマンジュウを
たべた・・・・・が、
なんとそれは、バフンだった!
→いいえ
せいさく
せいさく
「なに?オラのすすめるものが、
くえねえっていうのか?
それじゃ、おれがぜんぶくうぞ。
せいさく
せいさく
「だいたい、マンジュウてのはな、
ひとくちにがぶっとくいついて、
はぐはぐ・・・・・げっ・・・
ま、まずい・・・
私
それもそのはず、
それはマンジュウのカタチをした
バフンだった

たえもん
たえもん
「オレは、たえもん。
ういーっと。
ちょ、ちょっと・・・
のみすぎたかな?

たえもん
たえもん
「おまえも・・のむか?
→はい
たえもん
たえもん
「あ、あれ?
ははは、もう酒がねえや。
→いいえ
たえもん
たえもん
「ナニ?
おれのすすめる酒が
のめないってのか・・・
ん?もうからっぽだ!・・

老婆
「ここは、ゆきわたりのむらですじゃ。

老人
「この村によそからのおきゃくさんは、
ひさしぶりですじゃ。

作男
「キツネ村?
この村のちかくにあるって話だが、
オレはいったことがないね。

学生
「キツネ村へは、
いちどだけいったことがあります。
キツネたちはしんせつでしたよ。

カン子
カン子
「わたしカン子。
私たち、キツネとなかよしなのよ。

シロウ
シロウ
「ボクはシロウ。
キツネ村のキツネは、
人をだましたりはしないんだよ。

老婆
「わたすは、
シロウとカン子のばあさんですじゃ。
この子たちは、
キツネが人をだまさないと
いうんですじゃ。

学生
「ぼくはシロウとカン子の兄です。
シロウとカン子は、
キツネのコンザブローと
なかがいいんです。

コンザブロー
コンザブロー
「ぼくは、コンザブロー。
おやまあ、おとなのくせに
ボクと話せるんですね。

私
私はイーハトーヴォ市街地へ
もどることにした。


●ケンジントンホテル

私
きのうおとずれた
ゆきわたりの村は、
とても美しいところだった。
さあ、きょうはどこにいこうか?
・・・・・かまネコ?
そうだ、ねこのじむしょのかまネコは
どうしているだろうか?
私はかまネコに会いにいくことにした。

●イーハトーヴォ市役所

レオーノキュースト
レオーノキュースト
「ゆきわたりの村には、
キツネ村へのかくされた
つうろがあるようですね。
どうです、さがしてみては?

●猫の事務所

黒ネコ
黒ネコ
「かまネコにはがっかりしたよ。
せっかく目をかけてやってたのに、
こっそり、オレをじむちょうから
ひきおろそうとしてたんだ。

かまネコ
かまネコ
「そんなこと・・・
してません・・・

黒ネコ
黒ネコ
「もうおまえは、
しんようできない。

黒ネコ
黒ネコ
「ふん・・・しょせん、
カマねこ、カマねこだな。

かまネコ
かまネコ
「・・シクシク・・

私
かまネコは、ただなくばかりだ。
そしてほかのネコたちはむっつりと
おしだまっている。
これから、
ネコのじむしょはいったい、
どうなってしまうのだろう?


●雪渡りの村

たえもん
たえもん
「オレは、たえもん。
・・・あんたとあうの、
はじめてじゃないよな?
しかし、どこであったんだろう?

たえもん
たえもん
「きのう、せいさくと
ハラっぱでさかもりしたんだが、
キツネのヤツめ、
おれらが酒をのんで
よっぱらってるのをいいことに、
おれらをバカしやがったんだ。

せいさく
せいさく
「オレは、せいさく。
いやあ、エライ目にあったよ。
きのうハラっぱで
さかもりをしてたんだが、
キツネのヤツめが、
オレらをだまして
バフンをくわせやがったんだ。

せいさく
せいさく
「キツネのヤツめ、ゆるさんぞ。
しかえしにワナを
しかけてやったんだが・・・

作男
「せいさくがキツネにだまされたって
おおさわぎしてたぞ。

学生
「白キツネのコンザブローにたのめば、
キツネ村までつれてってくれますよ。

カン子
カン子
「キツネ村のキツネは、
ちゃんとやくそくをまもるのよ。

シロウ
シロウ
「白キツネのコンザブローは、
きにいったひとを
キツネ村につれてってくれるんだよ。

老婆
「シロウとカン子が、
キツネ村へいくと
いっておりますじゃ・・・

学生
「12さいをすぎるとキツネ村には
いれてもらえなくなるんです。
・・・ぼくですか?
ぼくは12さいだから、
だめでしょうね。

コンザブロー
コンザブロー
「キツネ村につれていけ・・・?
キツネ村にオトナの人間は、
はいれないんです。
おひきとりください。

子ギツネ
「たすけてください。
ゆきのしたのワナに、
あしをはさまれてしまいました。
だれかワナをはずせる人を、
よんできてください。

カン子
カン子
「えっ、子ギツネが?

シロウ
シロウ
「子ギツネがつかまってるって?
たすけてあげなきゃ。

カン子
カン子
「わたしも、子ギツネをたすけに
いってくる!

老婆
「ほんとうにキツネは、
人をだまさんのかもしれんですな。

学生
「シロウとカン子は、
やさしい子たちです。

シロウ
シロウ
「ワナのはずしかたをしっていれば、
これくらいカンタンだよ。

カン子
カン子
「キツネさん、
たいしたケガじゃなくてよかったね。

子ギツネ
「ワナにかかったボクを
みつけてくださったたびのかた、
どうもありがとうございました。
シロウさん、カン子さん、
キツネ村でおまちしてます。
それではさようなら。

私
そういうと、
子ギツネはどこかへいってしまった。

コンザブロー
コンザブロー
「なかまをたすけていただきまして、
ホントにありがとうございます。
つきましてはあなたを、
みょう日もよおされる
私たちキツネのげんとう会に、
ごしょうたいしたいとおもいます。
とりあえずきょうは街のホテルで、
からだをおやすめください。
またあした、お会いしましょう。

私
私はキツネのげんとう会に
しょうたいされた。

コンザブロー
コンザブロー
「それではみょう日のゆうがた、
このばしょでおまちしてます。

たえもん
たえもん
「キツネには、
かかわらないほうがいいぞ。

老婆
「わしはキツネのことは
よくしらんですじゃ。

老人
「この村のちかくに
キツネ村があることは
しってますじゃ。

せいさく
せいさく
「なかなかキツネが
ワナにかからないなあ。

作男
「キツネ村にいく?
きをつけていってきなよ。

学生
「キツネ村にいくんですか?
キツネたちによろしく。

カン子
カン子
「あしたのげんとう会が、
たのしみね。

シロウ
シロウ
「げんとう会にいけるの?
よかったね。

老婆
「あなたもげんとう会に
いきなさるのですか?
でしたら、シロウとカン子を
よろしくおねがいしますじゃ。

学生
「ぼくもげんとう会にいきたいなあ。


●ケンジントンホテル

私
きょうはキツネ村で
げんとう会がもよおされる。
私はさっそくでかけることにした。

●イーハトーヴォ市役所

レオーノキュースト
レオーノキュースト
「キツネ村にいく?
ほお、それはたいへんなコトですよ。
私もいってみたいなあ。


●雪渡りの村

たえもん
たえもん
「きょうはとりいのちかくで、
白いキツネをみたぞ。

老婆
「シロウとカン子が
キツネたちにだまされねばいいがのう。

学生
「シロウとカン子は、
キツネ村にいきました。

コンザブロー
コンザブロー
「そろそろ日もくれてまいりました。
これよりキツネ村へむかいたいと
おもいます。

●キツネ村

コンザブロー
コンザブロー
「キツネ村はこの森を
ぬけたところにあります。
私についてきてください。

コンザブロー
コンザブロー
「それでは私、
会のじゅんびがありますので、
先にいっております。
あとでまた、お会いしましょう。

キツネ
「キツネ村へようこそ。

キツネ
「みんな、このさきにある
キツネの学校でげんとうを
みています。

キツネ
「おや、まあおどろいたこと。
人間のオトナがわたしたちに
話しかけてるわ。

子ギツネ
「げんとうは、たのしいな。

キツネ
「げんとう会は、
私たちキツネにとって、
たいせつなたのしみなのです。

子ギツネ
「あっ、人間のおとなだ!

キツネ
「やあ、よくいらっしゃいました。
ゆっくりたのしんでいってください。

キツネ
「せんじつは、
うちのチビがおせわになりました。
ほんとうにありがとうございました。

子ギツネ
「きのう、あなたとシロウさんたちに
たすけていただいた子ギツネです。
ほんとうにありがとうございました。
「きょうは、
たのしんでいってください。

カン子
カン子
「げんとうは、おもしろいな。

シロウ
シロウ
「ああ、たのしいな。

コンザブロー
コンザブロー
「みなさん、
きょうはシロウさんカン子さんの
ほかにもう1人おきゃくさまが
いらっしゃってます。
そのおきゃくさまに
かんげいのきもちをこめて、
キツネ村とくせいの
おまんじゅうをたべていただきたいと
おもいます。

キツネ
「おまんじゅうを
おめしあがりください。

私
まんじゅうをたべますか?
→いいえ
私
私はせいさくがたべた、
まんじゅうのようなバフンを
おもいだしてしまった。
ためらっている私をみて、
キツネたちはかなしそうなカオをした。
私
・・・・・・・・
私はなにをしていたのだろう?
はやくキツネのげんとう会へ
いかなくては。
→はい
私
私はゆうきをだして、
まんじゅうをたべた。
まんじゅうはとてもうまかった。
コンザブロー
コンザブロー
「みなさん、
こんばんのげんとう会は
これでおしまいです。
こんやみなさんは、
ふかく心にとめなければ
ならないことがあります。
それは、
キツネのこしらえたものを、
かしこくて、
すこしもおさけをのんでいない
人間のおとなのかたが、
たべてくだすったということです。
そこで、みなさんはこれからも、
おとなになってもウソをつかず、
ほかをそねまず、
私どもキツネのいままでの
わるいひょうばんを、
すっかりなくしてしまうだろうと
おもいます。
へいかいのじです。

カン子
カン子
「またこようね。

シロウ
シロウ
「たのしかったね。

キツネ
「きをつけておかえりください。

子ギツネ
「またあそびにきてね。

キツネ
「きをつけておかえりください。

子ギツネ
「またあそびにきてね。

キツネ
「さようなら、おげんきで。

キツネ
「きをつけておかえりください。

子ギツネ
「またあそびにきてね。

キツネ
「きをつけておかえりください。

キツネ
「きをつけておかえりください。

コンザブロー
コンザブロー
「ありがとうございました。
すばらしいげんとう会になりました。
それではさいごに、
これをおわたししたいとおもいます。

私
コンザブローが私にくれたもの、
それは賢治さんの手帳だった。
<雨ニモマケズ手帳を手にいれた>
ついに、手帳が7さつそろった。

コンザブロー
コンザブロー
「いぜん、
キツネ村へきただれかが、
わすれていったものです。
人間のものは、
人間へおかえししましょう。
どうぞ、おもちかえりください。

コンザブロー
コンザブロー
「それでは、
おきをつけておかえりください。

私
キツネ村のキツネたちは、
しょうじきだった。
いつか、人間と動物が、
もっとなかよくくらせる日が
おとずれますように・・・
私は、
しろいゆきを
ふみしめながら、
ゆきわたりの村をあとにした。