イーハトーヴォ物語
イーハトーヴォ 第一章 貝の火 第二章 カイロ団長 第三章 虔十公園林 第四章 土神と狐 第五章 グスコーブドリの伝記 第六章 オツベルと象 第七章 セロ弾きのゴーシュ 第八章 雪渡り 最終章 銀河鉄道の夜
第一章 貝の火
第二章 カイロ団長
第三章 虔十公園林
第四章 土神と狐
第五章 グスコーブドリの伝記
第六章 オツベルと象
第七章 セロ弾きのゴーシュ
第八章 雪渡り
最終章 銀河鉄道の夜
登場人物 7冊の手帳 アイテム 情報

【第七章 セロ弾きのゴーシュ】
●イーハトーヴォ市街地

男
「もうすぐイーハトーヴォ音楽祭だ。

女
「イーハトーヴォ音楽祭はまいとし、
かつどうしゃしん館でおこなわれます。

少年
「ボクね、音楽祭で、
ハーモニカふくんだよ。
でね、ボクね、
とってもじょうずにふけるんだよ。

男
「きょうもまた、
すばらしい日だね。うん。

男
「ああ、やっとお金がたまった。
けれど、はやくみにいかないと
えいがもおわってしまうなあ。

少女
「もうすぐ音楽祭よ、
ラン、ラン、ラン!

少年
「もうすぐ音楽祭だね。

犬
「ワンワン、
ボクもコンクールにでたいなあ。

●イーハトーヴォ駅前

シグナル
シグナル
「ああ、このままじゃいけない。
ゆうきをだしてシグナレスさんに
話しかけてみよう。

シグナル
シグナレス
「このごろシグナルさんは、
いつもためいきをついています。
シグナルさん、
はやくげんきになって。

●イーハトーヴォ市街地

男
「カネもちのオツベルが、
象たちにやられたんだって?
なに、そのばしょにいた?
ふーん・・・・・
象っておこるとコワイんだなあ。

詩人
「秋は、やっぱり音楽だね。

女
「ラーララララー。
ホホホ、ぜっこうちょうよ。

少年
「うちのかあさん
いまゼッコーチョーさ。
コンクールでゆうしょうを
ねらってるんだ。

女
「かまネコが黒いのは、
カマドでねむるクセがあるから
なんですって。
だから、ホントのけいろは、
キレイなのかもしれません!

男
「しってる?かまネコってのは、
カマドのなかでねむるから、
かまネコっていうんだよ。

女
「ネコのじむしょにいけば、
いつもやくにたつことを
おしえてくれますよ。

女
「がいこくでしゅぎょうして、
カイロ団長もりっぱなカエルに
なったわね。

男
「カイロ団長のみせは、
やすくておいしいカクテルが
うりものなんだってね。

男
「音楽祭のあいだ、
かつどうしゃしん館のえいがは、
お休みなんだってね。

犬
「音楽祭がちかいので、
みんなワクワクしてますね。

●ケンジントンホテル

ホテル支配人
ホテルしはいにん
「音楽祭では、私もじまんの
ノドをひろういたしましょう。
アー、アアアーッ!

女
「私、音楽祭をみるために、
イーハトーヴォにきたんです。

女
「音楽はすばらしいわ。
イーハトーヴォ音楽祭、
とてもたのしみにしてます。

●イーハトーヴォ市役所

レオーノキュースト
レオーノキュースト
「金星楽団のえんそうは
おききになりましたか?
セロのゴーシュはこのごろ、
ひょうばんがわるいようですね。

●らすちじん協会

ファゼーロ
ファゼーロ
「もうすぐ音楽祭ですね。
こんど音楽祭のコンクールにでる、
金星楽団のゴーシュさんは、
わたしたちのセロの先生でなんですよ。

ファゼーロ
ファゼーロ
「ちかごろゴーシュさんは、
あまりセロをひかないんです。

作男
「5さつめの手帳がみつかった?
そりゃすごいだ。
がんばってのこりをさがすだ。

作男
「このごろゴーシュさんのセロは、
ひょうばんがわるいだ。

●猫の事務所

かまネコ
かまネコ
「ゴホゴホ・・・・・
すこしカゼぎみニャんです。
あなたもカゼにはきをつけてください。
あたらしいじょうほうですニャ。
賢治さんはひところ、
ゴーシュの家をひんぱんに
おとずれていたようですニャ。
ゴーシュの家?
さて、どこにあるんでしょうニャ?
ここには、じょうほうが
ニャいんです。

●活動写真館

モギリ
「ただいまムードまんてん、
レンアイえいがを
じょうえいちゅうだよ。

観客
「こんなにつまらない
えいがだったとは・・・
ザンネン。

観客
「せんそうえいがをみせろ!

観客
「これはすばらしいえいがだ
・・とおもう。

観客
「うっうっ・・なんどみても、
やっぱり、かわいそうだわ。

観客
「えいがはえいがだす。

観客
「グーッ、グーッ、ブフッ・・・

観客
「となりのひとのイビキがうるさいわ。

劇場支配人
げきじょうしはいにん
「そろそろ、音楽祭のじゅんびを
しなければならんなあ。

マネージャー
マネージャー
「イーハトーヴォ音楽祭の
コンクールには、
とうげきじょうを
しようするでございますよ。

●カイロ団長の店

カイロ団長
カイロ団長
「これは、これは、いらっしゃい。
カイロ団長のカクテル・バーへ
ようこそ。

カイロ団長
カイロ団長
「もうすぐ、音楽祭ですね。

カエル
「ヒャッホーイ、
音楽祭ではカエルのうたを
うたうぞーい。

カエル
「ヒャッホーイ、オレもうたうぞーイ。

カエル
「金星楽団のゴーシュが、
賢治さんの手帳をもってるって
話をきいたことがあるよ。
ゴーシュの家かい?
ゴーシュは村はずれの
すいしゃごやにすんでるよ。

私
私はゴーシュの家を
たずねることにした。


●ゴーシュの水車小屋

農夫
「ゴーシュさん?
ああ、セロひきか。
あいつならこの先の、
すいしゃごやにすんでるよ。

老人
「すいしゃごやなら、
しばらく北にいけばあるですじゃ。

少女
「ゴーシュはちかごろ、
セロのれんしゅうをしないの。

老婆
「賢治さん?
いぜんはよくゴーシュさんのところへ
あそびにきてたみたいだけど、
さいきんはあまりみかけないねえ。

少年
「ゴーシュさんの
れんしゅうなかまだったカッコウが、
びょうきになったんだって。

カッコウ
「私はカッコウ。
ドレ・・ミ・・ファソ・・ラ・・・
「くるし・・い・・

農夫
「ゴーシュのセロはひどい音だが、
こうもしずかだと、
少しさびしいもんだね。

老婆
「ああ、つかれた・・・
やくそうをみつけるのも、
トシをとるとたいへんだねえ。

ネズミ
「ぼく、ネズミ。
ともだちのカッコウさんが、
ノドをいためてしまったでチュウ。
「カッコウさんは、
かわいそうでチュウ。

三毛猫
「ゴーシュ先生はいませんよ。
「ゴーシュ先生も、
いぜんは家にかえってくるなり
動物たちとセロのれんしゅうを
していたんですけどねえ。
でも、れんしゅうなかまだった
カッコウがびょうきになってからは、
ネズミやらタヌキやらも
こなくなってしまって・・・
それからなんです。
ゴーシュ先生があんなふうに
なってしまったのは・・・
「カッコウさえげんきになればなあ。


●猫の事務所

かまネコ
かまネコ
「のどをなおすクスリですかニャ?
少々おまちください・・・
ああ、わかりましたニャ。
おきニャぐさからつくることが
できるようですニャ。
おきニャぐさのはえるばしょは、
かわぎしですニャ。


●ゴーシュの水車小屋

私
おきなぐさがはえている。
とりますか?
→はい
<おきなぐさを手にいれた>
→いいえ

老婆
「おや?そりゃあ、
おきなぐさじゃねえだか。
クスリにするだか?
→はい
「そうか。んならオラが
つくったクスリと、
こうかんしてやるだよ。
さあ、おきなぐさをおくれ。
私
<おきなぐさを手わたした>
老婆
「ちょっとまっててけろ。
「ほれ、これだ。
もっていきな。
オラはクスリをつくるのがすきでな。
けんど、やくそうさがしが
ちかごろはおっくうで・・・
なにかあったら、
またくるがええだ。
私
<ノドのクスリを手にいれた>
→いいえ
「そうか・・・
じゃ、なにかあったら、
いつでもくるがええだ。

老婆
「クスリはきいただか?

私
<ノドのクスリをつかった>

カッコウ
「ドレミファソラシド、
カッコウ、カッコウ、カッカッカッ!
なおった、なおりましたよ!
これでまたゴーシュさんのところに、
ドレミをおそわりにいけます。
「ありがとうございました。

ネズミ
「エッ?カッコウのノドが
なおったんでチュか?
よかったでチュウ。

三毛猫
「エッ?カッコウのノドが
なおったんですか?
よかった、よかった。


●イーハトーヴォ市役所

レオーノキュースト
レオーノキュースト
「かつどうしゃしんかんでは、
金星楽団のけいこが
おこなわれているようです。

●活動写真館

モギリ
「きょうはもうおわりだよ。

劇場支配人
げきじょうしはいにん
「プロの楽団が、
ゆうしょうをのがすようなことが
あってはならん。

劇場支配人
げきじょうしはいにん
「それにしても、
セロのゴーシュはヘタだなあ。

マネージャー
マネージャー
「ゆうしょうできなかったら、
セロのゴーシュはクビでございますよ。

マネージャー
マネージャー
「・・・楽団の者は、
みなかえったでございますよ。
ゴーシュ?家にかえりましたが・・・


●ゴーシュの水車小屋

老婆
「となりもまた、にぎやかになっただ。
よかった、よかった。

こだぬき
「ぽんぽこぽん。
ぼく、こだぬき。
タヌキジルってなに?
「タヌキジルがたべたいな、
ぽんぽこりん。

たぬき
「ぽんぽこぽん。
あたしゃ、たぬき。
カッコウさんのびょうき、
なおってよかったね。
「めでたい、めでたい、
ぽんぽこぽん。

ネズミ
「みんなもどってきたでチュウ。
うれしいでチュウ。

カッコウ
「カッコウ、カッコウ、カカッコウ。
どうです、うまいもんでしょう。

三毛猫
「ゴーシュさんが、
れんしゅうをはじめました。
「ジャマしちゃだめですよ。

ゴーシュ
ゴーシュ
「れんしゅうのジャマをしないでくれ。

私
ゴーシュのセロのねいろとともに、
秋のよるはふけていく・・・


●ケンジントンホテル

私
そしてイーハトーヴォ音楽祭の日・・・

●イーハトーヴォ市街地

男
「きょうはコンクールの日だね。

女
「きょうもいいてんきだわ。

男
「ウチのいそうろうのかまネコが、
びょうきになったんだ。
かわいそうに、カマドのまえで
ふるえてるよ。

少女
「かまネコさんが、
びょうきになったんだって。

●イーハトーヴォ市役所

レオーノキュースト
レオーノキュースト
「こんかいばかりは、
金星楽団のゆうしょうは、
むずかしいでしょう。

●らすちじん協会

ファゼーロ
ファゼーロ
「いよいよコンクールの日ですね。
ゴーシュさんはきっと、
うまくひいてくれるでしょう。

作男
「ことしも金星楽団がゆうしょうだ。

作男
「さいきんゴーシュさんは、
ずいぶんセロをひいてたらしいだ。


●ゴーシュの水車小屋

三毛猫
「ゴーシュさんは、
街にでかけてるんです。


●活動写真館

モギリ
「いま、げきじょうのなかには
はいれないよ。

劇場支配人
げきじょうしはいにん
「ドキ、ドキ、ドキ、みんな、
うまくやってくれるかなあ。

マネージャー
マネージャー
「みんな、がんばれ、
私がココで、おうえんしてるで
ございますよ。

●猫の事務所

ミケネコ
ミケネコ
「あ、いらっしゃいませ。

ミケネコ
ミケネコ
「かまネコは、まだきてませんよ。

●かまネコの家

かまネコ
かまネコ
「うう・・・くるしいニャ。
カゼをこじらせてしまって・・・

かまネコ
かまネコ
「か、からだがうごかニャい・・・

●活動写真館

モギリ
「金星楽団がゆうしょうしたよ!

劇場支配人
げきじょうしはいにん
「やった、ゆうしょうだ!
ハハハ、よかった、よかった。

マネージャー
マネージャー
「みんながんばりましたねえ。
とくにセロのゴーシュはすごかった・・

司会者
しかいしゃ
「かいじょうのみなさま、
おまたせいたしました。
アンコールです!
コンクールゆうしょうチーム、
金星楽団のセロそうしゃ、
ミスター・ゴーシュのソロを
おききください!
それではどうぞ!

私
ゴーシュのソロえんそうは、
れんしゅうのかいもあって
たいしたものだった。
ゴーシュはセロそうしゃとして
やっとみんなにみとめられたのだ。

●ケンジントンホテル

私
音楽祭のつぎの日・・・
祭のあとの街は、とてもしずかだ。
私は街をあるいてみることにした。

女
「ああ・・・すばらしかったわ。
イーハトーヴォ音楽祭、
わざわざみにきたかいがありました。

女
「ゴーシュは、セロのてんさいですね。

ホテル支配人
ホテルしはいにん
「音楽祭では、じまんのノドを
おきかせしま・・・
ええっ!もうおわった!?

ホテル支配人
ホテルしはいにん
「らいねんこそは、
音楽祭にかならずでますぞ。
よし、きょうからトックンだ。
アーッ、アアアアー!

●イーハトーヴォ市街地

男
「ゴーシュのセロはみごとだったね。

男
「かまネコは、この街のどこかに
いそうろうしてるらしいよ。

女
「音楽祭がおわると、秋もおわりね。

少年
「かまネコさんが、
びょうきになったよ。

男
「音楽祭もおわったね。

少女
「ラン、ラン、ラン、
ラン、ラン、ラン!

少年
「そろそろさむくなってきたので、
ぼくはもっと南の街へいくよ。

犬
「ワンワン、さよなら。


●イーハトーヴォ市街地

男
「音楽祭がおわれば、すぐ冬だね。

詩人
「秋は、やっぱり音楽だね。

女
「シクシク・・ああ、だめだったわ。

少年
「かあさんはステージで、
うたをわすれてしまったんだ・・・

女
「セロひきのゴーシュが、
ゆくえふめいなんですって?

女
「ゴーシュがソロでひいたのは、
<インドのとらがり>という
セロのどくそうきょくだそうです。
ふうがわりなきょくですが、
ええ、なまはんかなギジュツでは
ひけないきょくですね。

犬
「祭りのあとは、
すこしものがなしいです。

●イーハトーヴォ市役所

レオーノキュースト
レオーノキュースト
「金星楽団のゴーシュが、
ゆくえふめいになったようです。

●らすちじん協会

ファゼーロ
ファゼーロ
「ちょうどいいところにきましたね。
さっきゴーシュさんがココにきて、
すいしゃごやまできてほしいと・・・
そうおっしゃってました。

ファゼーロ
ファゼーロ
「ゴーシュさんはやっぱり、
すばらしいセロひきだっただ。

作男
「ゴーシュさんは、
賢治さんに会いにいくといってただ。

●猫の事務所

ミケネコ
ミケネコ
「かまネコのヤツは、
むだんけっきんです。
まったく、しょうのないヤツだ。
あなたもあんなヤツのいうことは、
しんじないほうがいいですよ。

ミケネコ
ミケネコ
「なんでそんなに
かまネコをきらうかって?
あいつはうすぎたなくて、
みっともない、ネコぞくの
はじさらしだからです。

●カイロ団長の店

カエル
「音楽祭はたのしかったなあ。

カエル
「ゴーシュのセロには、
オレのうたもかなわないよ。

カエル
「ゴーシュはすばらしいセロひきだね。

●活動写真館

モギリ
「えいがは、まだやってないよ。

劇場支配人
げきじょうしはいにん
「ゴーシュがどこかに
いってしまったよ・・・

マネージャー
マネージャー
「ゴーシュはどこに
いってしまったのでしょう?


●ゴーシュの水車小屋

農夫
「ゴーシュはたびにでたよ。

老人
「すいしゃごやも、
いまではあきやですじゃ。

少女
「ゴーシュが、
いなくなってしまったの。

老婆
「ゴーシュさんがいなくなったって、
ほんとうかい?

少年
「カッコウがげんきになったんだよ。

カッコウ
「カッコウ、カッコウ、
ドレミファソラシド、カッカッカッ。
ゴーシュさん、いったいどこへ?

農夫
「ゴーシュなら、
にもつをまとめてでてったよ。
これからは、ゴーシュのヘタな
セロをきくこともないんだな・・・

老婆
「えっ?
すいしゃごやのセロひきが
いなくなったって?
・・・さびしくなるだよ。

ネズミ
「ゴーシュさんがいないと
さびしくなるでチュウ。

三毛猫
「こんにちは。おまちしてました。

三毛猫
「ゴーシュ先生から、
手紙をあずかっています。
どうぞ・・・

私
それは、ゴーシュが私にあてた
ものだった。

ぼくはたびにでます。
もしよろしかったら、
このへやのものは
ぜんぶあなたにあげます。
いろいろおせわになりました。
では、また会う日まで、
さようなら。
         ゴーシュ

三毛猫
「私がるすばんをしますから、
このすいしゃごやもしばらくは、
だいじょうぶですよ。

私
木のはこをあけて
なかをのぞいてみると、
たくさんのガラクタと
いっさつの手帳がはいっていた。
私は手帳をしらべてみた。
ぬのでつくられたその手帳は、
まぎれもなく賢治さんの手帳だった。
<ぬのせい手帳を手にいれた>

私
あるはれた秋の日、
ひきなれたセロをあいぼうに、
ゴーシュがとつぜんたびにでた。
そのいきさきはだれもしらない。